ぼくのヒーロー 第3話 せいぎのみかた |
「こ・・・これは」 私は千葉の買ってきた衣服をゼロに着せ(自分で着ると意地を張っていたが、無理やり手伝った)その愛らしさに思わず言葉を失った。 フード付きの、と確かに指示は出した。出したが、これを選ぶか千葉!いや、朝比奈か!?なんにせよでかした!!!!! ゼロが不貞腐れながらも身につけているのは、相変わらずの真っ黒い服だが。 太腿までの長さの、ロングパーカーのフードは少し大きめで、大きな猫耳つき。 パーカーとセットのパンツには、お尻の部分に長い尻尾がついていた。 首元がやはり見えるので、ゼロ服の白いスカーフを首に巻き、前で大きな蝶蝶結びにした。 黒猫だ、黒猫が居る!いや元々猫じみた奴だったが、それとこれとは次元が違う。なんだこれは、可愛すぎだろう。 キラキラとした大きな紫の瞳で、顔を赤らめ、ぷくっと頬を膨らませながら、こちらを上目遣いで見つめているその姿。ああ、写真に残したい! ゼロは3歳児ぐらいまで若返っていて、可愛い衣服が多いだろうとは思っていたが。 これにゼロのお面とか、本当にただのヒーロー好きのお子様だ。 「しぃつー、かおが、おかしいぞ。・・・やはり、このかっこうはへんだよな」 おもわずにやにやと、だらしなく笑ってしまっていた事に気が付き、私はごほんと咳払いをした。 私の笑みが、この服が似合っていないのだと勘違いしたらしく、ルルーシュは恥ずかしそうに目を逸らした。 急いで買ってきたのだから、他に着る物もないと、途方に暮れてたそんな姿も愛らしい。って変態か私は。 「大丈夫に決まっているだろう。こんなにこの服を着こなせる人間など、お前以外にはいないさ」 少し落ち込んで見えるその顔に、無粋なお面をつけてやり、その体を抱き上げた。 「おろせ、あるける」 「子供の体力は少ないぞ?歩くことに体力を使うぐらいなら、頭を使え」 こんな可愛い物を抱っこできないなんてありえない。なんて口には出さず、体力を理由に大人しくさせた。 部屋から出て、しっかりとロックをすると、ゼロを抱えたまま階下に降りた。 階下では、同じく幼児化した者たちが真新しい服に袖を通していた。 こうやって見ると、カレンはルルーシュと同じ3歳児ぐらいか。他の連中は6歳~9歳あたりだな。カレンは赤い犬耳付きのロングパーカーとミニスカートの服を着ていた。もちろん尻尾つき。ルルーシュによく似た作りということは、同じメーカーの動物シリーズなのかもしれないな。 玉城が用意したおもちゃを手に、子供たちは楽しそうに玉城と遊んでいた。普段とは違い、にこにこと愛想良く遊ぶ玉城の姿に、子供好きなのか、精神年齢が同じなのか迷うところだ。 「ぜろ~」 千葉の腕の中のカレンが、私の腕のゼロに気が付き、手をブンブンと振ると、周りの子供も大人もこちらに視線を向けた。 「あ~、ぜろとおそろいだ」 カレンはその事に気が付き、可愛らしく頬を赤く染めながら嬉しそうに笑った。 「あーっゼロのお面!」 「ずるいぞ!次は俺がゼロをやるんだ!」 南と扇がゼロを指差し、そう叫んだ。これはあれか、ヒーローごっこの感覚になっているのかもしれないな、こいつら。 「だめ!ぜろはこうたいしないの!ぜろはぜろだけなの」 「でもゼロがリーダーだろ?俺一回やりたい」 「あれ?戦隊物のリーダーって赤だろ?じゃあカレンがリーダー?」 子供たちにとって、黒の騎士団はすでにヒーロー戦隊物の感覚となっているようだ。 昨日までの記憶はあるはずなのに、子供の精神と感情に支配されると、こうなるのだろうか?その割に、うちの子は喋り方が幼児になってはいるが、いつもと大して変っていない気がする。性格の差か? 子供たちがわいわいと騒ぎ、それを玉城がまとめる光景を見てから、ゼロは辺りをきょろきょろと見回した。 「らくしゃーたはどうした?」 いつの間にか傍に来ていた藤堂にゼロが聞いた。 「ああ、今来る。それにしても、君と彼らと、どうして差があるのだろう?」 無邪気に笑い遊ぶ子供たちを見て、藤堂は渋い顔で嘆息した。 「さ、というと?」 「お前があまりにもいつもと変わらないからさ。そこの連中は見た目通りの幼い子供。だがお前は姿が変わっただけで、言動がゼロのままだ」 「いったはずだ。いまのわたしは、かんじょうも、せいしんも、こんとろーるしきれないと。だが、それでも、わたしはぜろだ。ぜろとしてのせきにんがある」 「つまり、ろくに責任のない奴らは、自制をなくし、ただの子供に戻っていると。ああ、藤堂。ゼロを見て解っているとは思うが、そこの子供たちも、ちゃんと昨日までの記憶は持っているからな?」 そうは見えないと言いたげに、藤堂は子供たちへ目を向けた。 そんな中で、一人、顔を真っ赤にさせて、怒りを爆発させた子供がいた。 「いいかげんにしなしゃい!わたちたちは、もうこどもじゃないんでしゅよ!くろのきしだんなの!あそんでるばあいじゃないのよ!」 上手くしゃべれない事にいら立ちを見せながらも、必死に叫ぶ声が部屋に響き渡った。 「でも、俺達こんな小さくなったし、何もできないよ」 扇は、仕方ないんだと、千葉の腕に抱かれてぷんぷんと怒るカレンを見上げた。 そうだ、どうして気づかなかったのだろう?カレンだけは一緒になって遊んではいなかった。不貞腐れたように皆を見ていて、機嫌が悪いのか?と千葉が抱きかかえていたのだ。機嫌が悪いのではなく、最初は混乱して泣いていたが、今はだいぶ落ち着きを取り戻したカレンは、能天気に遊ぶ子供たちにいら立ちを募らせていたのだ。 だが、そんなカレンの気持ちも知らず「だよな」「何もできないよ」「俺たち子供だし」「カオスな状態ですから」などと、扇に同意するように子供たちから声が上がる。 「ばかぁ!くろのきしだんは、せいぎのみかたなのよ!せいぎがそんなかんたんに、あきらめてどうするのよ!」 興奮し、顔を真っ赤にさせながら怒るカレンを「怖い怖い」「正義の味方なのよ~だってさ」「カレンは小さいから理解ってないんだよな」と馬鹿にするかのように、子供たちはわらい、見つめていた。千葉は「お前の気持ちは解る紅月」と、カレンを宥めるようにあやし「お前ら、カレンの言ったことの何がおかしいんだよ!」と、玉城もカレンを擁護するように口を添えるが、子供たちは聞く耳を持たない。自分たちは子供なのだから子供らしく遊ぶのだ。それの何が悪いのだと。当然のように主張する。 とうとう耐えかねたカレンは泣きだし、千葉はカレンを抱いてオロオロとしていた。 「ちば」 ゼロはそんな千葉に声をかけ、2階を指差した。 千葉は、ゼロの行動に気がつくと、頷き2階の仮眠室へと移動した。 「かれんはつかえるが、ほかはだめだな。らくしゃーた、もどったか」 「おまたせゼロ。調べたところ、他にこの現象は起きてなさそうよ?」 「そうか、ならばらくしゃーた、このげんしょうの、げんいんをしらべてくれ。じっけんが、ひつようなら、わたしのからだを、つかってほしい」 「私の紅蓮のパイロットが、あれじゃどうしようもないものね。わかったわぁ」 ラクシャータは表情には出さないが、カレンをとても気にいっていた。健気に頑張る元気なその姿に、好感が持てるのだと言う。黒の騎士団で一番若く、頭もいい。その上責任のある親衛隊の隊長にしてエース。 何より、可愛い紅蓮をあれだけ動かせる理想のパイロット。 そのカレンをあれだけ泣かせたのだ。ここの子供たちは、それはそれは怖い思いをするだろうな。ああ、怖い怖い。 まあ、うちの子を泣かせたら、もっと怖い目にあうぞ。何せ私は魔女C.C.なのだから。 「すまない、たのむぞ、らくしゃーた。なにか、ひつようなものはあるか?」 「血液サンプルや、当日何を食べたかとかも知りたいわね。あ、このアジトはいろいろ調べるから封鎖するわよ?」 「わかっている」 「医療関係の設備が必要になるわねぇ。それらを使える専用のアジトと。あとはそうねぇ・・・」 ゼロとラクシャータが藤堂を交え小難しい話を始めたので、私はふとカレンが居るであろう二階に視線を向けた。わんわんと泣きじゃくるカレンの声が、ここまで聞こえる気がする。黒の騎士団なのだから、正義の味方なのだから、いくら子供に戻っても、やるべき事があるのだと、小さな体で訴えていたカレン。 ゼロがルルーシュにとっての責任だと言うのであれば。 せいぎのみかた。カレンにとっての責任は、そこにあるのかもしれない。 どちらにしても、一番年下である3歳児がこれだけ頑張っているのに、それより年上があれか。これからの事を考えると、私は頭が痛くなった。 |