ぼくのヒーロー 第5話 あかされたしょうたい |
「ルルーシュが帰ってこない!?」 久々に軍の仕事がなく、朝から時間が空いたので、僕はルルーシュとナナリーに会いにクラブハウスに来ていた。 日曜日で学校が休みだったこともあり、インドア派の彼らの事だ、家にいるだろうと思っていたのだが、出迎えてくれたのは泣き腫らした顔のナナリーだった。 金曜の放課後に用事があるからと出かけ、その日の夜遅くに「遅くなったからビジネスホテルに泊まって、明日の朝帰る」と電話があったのを最後に、連絡が取れなくなったのだという。 ルルーシュがナナリーに連絡をいれず、こんなに不安にさせる筈がない。 「スザクさん、お願いします。お兄さまを探して下さい」 泣きながら言うナナリーに「わかってる。任せて」と返事をし、僕は不安に駆られながら、クラブハウスを後にした。 何も情報がない以上カンに任せて走るしかない。 僕の行動は無駄かもしれない。でも、何もせずにいる事なんて出来なかった。 シンジュクゲットー。あの時、ルルーシュと再会した地に、気がつくと僕は足を踏み入れていた。何故ここに来たのかはわからない。辺りを見回すが、当然だがそれらしい人影は無い。元々シンジュク事変以降、このゲットーに立ち入る人は少ないので人影自体がほとんどなかった。僕は奥へ奥へと歩みを進め、ふと目に入った高い建物に駆けのぼり、その屋上から周囲を見渡した。たまに人影を見かけるが、彼ではない。やはりこんな方法で見つけるのは無謀すぎるか。 そう思いながらも、地上を中心にあちらこちらに視線を彷徨わせていると、ふと、何かが視界に引っかかり、僕は遠くに見えるビルの屋上に目を向けた。 視界に映ったその姿に驚いた僕は、慌ててビルを下り、500mほど先にあるそのビルの階段を駆けのぼった。 そこは手すりも何もないビルの屋上。 小さな幼子が、その建物の縁に座り、たった一人でそこにいた。 ぼーっと空を見上げたり、きょろきょろとあたりを見回している。 屋上にたどり着いた僕は、気配を消し、足音を出来るだけ忍ばせその子供に近づき、抱き上げた。突然抱きかかえられたせいか、その子供は声を上げることなく、僕の腕の中で体を硬直させていた。 ああよかった。僕に気がついて身動きしただけで、落ちかねない位置だったから。 気付かれることなく、抱き上げる事が出来て、僕は安堵からほっと胸をなでおろした。 「こら、こんな場所に一人で危ないだろ?お母さんはどうしたんだい?」 背中から抱き上げていたその軽い体を、腕の中でくるりと回転させてから顔を覗き込むと、そこにはあのゼロの仮面。 僕は思わず息を呑んだ。 いやこれはお面か。 こんな物が売られているなんて。 よく見れば子供が着ているのは全身黒い服。 手袋も黒、靴も黒。 首元に巻いている白い布以外すべて黒。 そして顔にはゼロのお面。 こんな恰好をさせたのは、この子の親か?なんて非常識な。 これじゃまるで、ゼロはヒーローのようではないか。 幼いころ縁日で、戦隊物のヒーローの仮面が欲しくて、母にねだった事を思い出す。 赤いリーダーのお面が欲しくて、欲しくて。 買ってもらうと、すぐにそのお面をつけ走り回ったものだ。 思い出を穢された気分になり、僕は思わず顔をしかめ、そのお面を子供の顔から引き剥がした。お面は僕の手を離れ、屋上から地上へと落ちていく。 覆っていたお面がなくなり、視界に映し出されたその顔に、僕は息をする事も忘れるほど驚いた。 柔らかそうな艶やかな漆黒の髪と、透き通るような白い肌。 そして大きく見開かれた美しい紫の瞳。桜色の小さな唇は、驚いたせいか、ほんの少し開いていた。 なにこれ!?可愛いっ!こんな可愛い子見たことないよ!?人間だよね!?天使って言われても信じるよ!しかもよく見たらこれ、黒猫の服じゃないか。猫耳にしっぽまで!そして胸元に白いリボン!可愛い!凄く可愛い!!持って帰っていい!? って、あれ?なんだろう、この子の色、ものすごく見覚えが。 僕が呆然とその顔を見つめていると、その大きな瞳が段々と潤んできて、眦に大きな水滴がぷっくりと溜った。 その体が次第にわなわなと震えだし、とうとう耐えきれなくなったのか、その子供は大きな涙を次々に零しながら、わあっと泣いた。 あ、しまった。そうだよね驚くよね。知らない人に抱きかかえられ、お面剥がされて見つめられたら。しかもそのお面、僕捨てちゃったし。 「ごめんごめん。泣かないで。僕が悪かったから、謝るから、ね」 よしよし、とあやすようにその子供を抱きしめながら、僕はビルの縁から階段の方へと移動した。 あの仮面に意識が行っていて、未だに危険なビルの縁に立っていたのだ。 背中を優しく叩き、体を揺らしながらあやすが、全然泣きやむ気配がない。 「よしよし、怖かったね。驚いたよね。ごめんね」 「うわぁぁぁぁぁ~っ!うわぁぁぁぁっっ!すざくにみられた~!わあぁぁぁ~!」 大粒の涙をこぼしながら泣きじゃくるその声の中に、聞き逃してはいけない単語が混ざっていて、僕は思わずその身を硬直させた。 今何て言った?スザクに見られた、と言わなかったか?気のせいか? スザクって僕の事だよね?あってるよね?僕に見られて?え? 僕が軽く混乱していると、階段を慌てて駆けのぼる足音が聞こえてきた。 「ゼロ!どうした!!」 バタンと勢いよく開けられた扉の向こうには、あの緑色の髪の少女が、息を切らせて立っていた。 |