ぼくのヒーロー 第6話   かめんのしんじつ 

幼くなっても、レジスタンスのトップという立場から逃げること無くゼロとして働き続けていたが、誰がどう見ても疲れきっていた。そんなルルーシュが、すこし一人になりたいと言うので、誰もいないビルの屋上に連れてきていた。
例え幼くてもルルーシュだ。一人で問題ないだろうと判断し、下の階を暇つぶしにふらふらと歩いていた時だった。
突然聞こえてきた子供の泣き声に、私はとび跳ねるように駆けだした。
ここにいる子供は一人しかいない。
息を切らせながら、泣き声のする屋上へ駆けあがり、鉄で出来た扉をあけると、そこに居たのは泣きじゃくるゼロを腕に抱いた、あの軍人だった。

「君は・・・」
「しぃつー!しぃつー!!」

泣きじゃくるルルーシュは、まるで母を求めるように手をこちらに伸ばして助けを求めていた。こんな姿今まで見た事などない。こんな姿、こいつのプライドが許さないはずだ。つまり、それほど驚き、混乱しているのだ。
幼い感情に流され、泣きじゃくる姿も可愛・・・いや、まてそんな場合じゃない。

「ああ、すまないな。その子は私の連れだ。返してもらえるかな?」

申し訳なさそうな顔をしながら、私が両手を差し出し足を進めると、何故かその男、スザクは、ゼロを抱くその腕に力をいれ、私から離れるように一歩後ろへ下がった。

「・・・何の真似だ?」

私は苛立ちを込めた低い声で、そう男に言った。

「しぃつー!」

ぽろぽろと瞳から涙を零しながら、早くと言いたげに、幼子がこちらに手を伸ばす。その姿に私は早く取り戻さなければと、焦る気持ちをどうにか抑え、男を睨みつけた。
第三者から見ても、これは完全に私の勝ちだろう。誘拐犯と、助けに来た母親の図の完成だ。いくら可愛いからと言っても、あげないからな。そいつだけは。

「誘拐か?軍人だろうお前。返してくれないか?大切な子供なんだ」
「・・・君は・・・いや、この子は」

そう言えばゼロのお面が無くなっている。
その容姿からルルーシュの関係かと疑っているのか。それならそれで構わないさ。

「私の子に決まっているだろう。そういえば、お前はその子の父親の友人だったか」

その言葉に「えっ?」と、スザクはこぼれ落ちんばかりにその両目を見開き、驚いた。
私の言葉に、ルルーシュまで驚きで目を見開いている。いやまて、お前はこの話に乗れ。いいから話を合わせろ。イレギュラーに弱くても、ここは何とか乗り切れ。

「ルルーシュと、君の子供だと?」

目が据わり、眉根を寄せ、一段低くなった声で、スザクが訊ねてきた。

「よく似ているだろう、父親似なんだその子は」

私はまた一歩前に進む。スザクは何かを考えているのか、じっと抱きかかえているルルーシュの頭部をみつめ、その場を動かなかった。
ルルーシュはこちらを見ながら、口をパクパクさせている。何か言いたいが、混乱して言えないのだろう。幼児化した事でさらにイレギュラーに弱くなったか。

「それは、嘘だ。・・・信じられないけど、この子は、いや、この子がルルーシュだ」

力強く断言したその回答に、思わず私は驚き、歩きだそうとした足をそのままに、立ち止まった。スザクは私の方など見もせず、片手でルルーシュの体を抱えると、空いた手で頭部を覆っていたフードを下ろした。
その事に驚いたルルーシュは、その瞳に涙をためたまま、スザクの顔を見上げると、スザクはそれまでの厳しい顔から一転、にこりと優しそうに微笑むと、その顔をルルーシュの髪に埋めた。

「うん、やっぱりルルーシュの匂いだ。どうしたんだい、ルルーシュ。なにがあったのさ?なんでこんな小さくなっちゃったの?」

スザクはそうルルーシュに質問しながら、空いた手でルルーシュの涙を拭った。
匂いって何だ匂いって!犬みたいなやつだと思ったが、判断基準も犬並みか!?
言っとくが、幼児化した事で幼児の匂い変わってるからな!それでも断言するのかお前は!それとも10歳の頃の記憶か!?
って今はそんなこと気にする時じゃない。私はスザクの腕からルルーシュを取り返すため、距離を一気に詰めた。

「返せ!それは私の物だ」
「断る。君か?君が彼にゼロのお面なんて付けたのか?そういえば、さっきゼロって呼んでたね」

言いながら、スザクの目がどんどん据わってくる。

「いいから返せ。お前には関係ない!」
「関係ない!?ふざけるな!ゼロなんて卑劣で卑怯な人間のお面をつけさせて、ゼロなんて呼ぶお前に渡せるか!!」

スザクの怒鳴り声に、それまで思考が停止していたルルーシュがまたぽろぽろと涙をこぼしながら泣きだした。

「うわぁぁぁぁぁぁっ!すざくがおこったー!すざくにきらわれたー!わぁぁぁぁぁ」
「え!?違うよ、ルルーシュの事、怒ってないよ!?嫌ってないよ!?ルルーシュ!?」
「うわあぁぁぁぁぁ!しぃーつー!しぃーつー!」
「良いから返せ!今助けるからな、待ってろ!」
「だから渡さないって言ってるだろ!」

私とスザクは、共に般若のような顔で、お互いを睨みあい、牽制し、ジリジリと間合いを測っていた。
そんな緊張感を、ルルーシュの一言が打ち砕いた。

「うわぁぁぁぁぁぁ!すざくなんかきらいだー!しぃーつーたすけてー!!」

その瞬間、スザクが顔を真っ青にして動きを止めた。
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