ぼくのヒーロー 第8話   まもりたいもの

「って何でそいつがここに居んだよ!」

私と共に来た男を見て、玉城がそう文句を言った。

「仕方ないだろう。自分が一緒じゃなければ、ゼロをここに戻さないと言うのだから」

その上、戻る条件の1つとして、ルルーシュは今私ではなくあの男の腕の中に居る。
私とスザクが対峙している時から、興奮と緊張と、泣いた事で体力を使い果たし、眠ってしまっていた幼いルルーシュ。私はそこから逃げる事も出来ず、渋々ルルーシュを渡すと、スザクだと解ったのだろうか?眠っているルルーシュはその小さな手で、スザクの服をぎゅっと握りしめ、その顔に安堵したような笑みを浮かべた。
その様子に、それまで青ざめ、恐怖と悲しみに歪んでいたスザクの顔がゆるみ、ほっと、安心したような泣き笑いの顔になった。
その瞳から何かがぽつりと落ちたような気もするが、私は何も見なかったことにした。
スザクにとって、ルルーシュとナナリーは、ある種絶対の存在だ。絶対に自分を信じ、受け入れてくれる。絶対に自分が守り、裏切らない、裏切れない存在。スザクにとっては平穏な日々の象徴ともいえる、そんな存在の片割れ。
その絶対に拒絶された事が、そうとう堪えたのだろう。
ルルーシュが歪んでいるのは解っていたが、スザクの場合、真直ぐな性格に見えるせいで気付かなかったが、こうやって見ると相当歪んでいる。
まあ、歪まずにいられるほど、恵まれた環境ではなかったな。
歪んでしまった二人の少年と、歪まなかった一人の少女。だが、三人とも互いに依存し、執着している。
その事を知っている私は、これ以上スザクを強く拒絶する事は出来ず、ルルーシュへの依存と執着を信じてここまで連れてきた。
玉城が私の後ろに居るスザクに気が付き、声を荒げていると、指令室へと作り換えている最中の場所から、藤堂達も姿を現した。

「スザク君」
「藤堂さん」

スザクがここに居ることに、四聖剣も警戒を示したが、藤堂は何事もないかのようにスザクに近づいた。そして、その腕の中で眠るルルーシュに視線を向ける。
ゼロはスザクの胸に顔を埋めるように眠っているが、スザクは念の為、片手でルルーシュを抱え、もう片手を自分の着ている上着でルルーシュの顔を隠すように覆っていた。
安心したように眠り続けるゼロと、それを守ろうとするスザク。
その様子に、藤堂は苦笑した。

「成程、スザク君はゼロが誰か知ったわけか」
「藤堂さんは知っていたんですか?ゼロが彼だと」

その会話で、玉城と四聖剣は、スザクもまたゼロの素性を知る人物だと気がついたようだった。

「今回の事でな。そうか、それでここまで?」
「はい。この状態の彼を預けても大丈夫なのか、確認を。でも、藤堂さんが知っているなら大丈夫ですね」

にこりと笑うスザクと、いつになく穏やかに笑う藤堂。そしてそれを苦笑しながら見ている私。すやすやと眠るゼロ。敵同士のはずなのに、妙に穏やかな空気が漂うこの場で、しびれを切らした玉城がずかずかと私達の近くまで歩み寄った。

「おいC.C.!なんでこいつが、ゼロの正体を知ってんだよ」

私に向かい、スザクを指差しながら玉城は怒鳴ってきた。それ以上近寄るな。煩いし、唾か飛んでくるだろう。ルルーシュが起きたらどうする気だ。

「馬鹿かお前。人に尋ねる前に、少しは気付け。こいつは枢木スザクだぞ?」

私の言葉に、そんな事は知ってると、玉城が怒鳴った。

「いいや、解ってない。枢木だぞ枢木。日本最後の首相、枢木ゲンブの一人息子にして、キョウト六家の一角である枢木家の嫡子だ。 ブリタニア軍に入って居なければ、枢木家の当主だった男だぞ」

キョウト六家の関係者だと聞いて、玉城は驚きに目を見開き、じろじろとスザクの顔を見た。枢木が解らなくても、キョウトがどれ程の力を持つかは、いくらこいつが馬鹿でもよく知っている。

「なんでそんな奴が名誉になって、ブリキの兵隊になんかなってんだよ!」
「君には関係ないだろう」

スザクは玉城を見据え、低い声でそう言い切った。
どうやら玉城は、スザクの警戒対象となったようだ。当然だな。

「C.C.、ゼロの事を知っているのは、君と藤堂さん以外いるのかな」
「ああ、あとはラクシャータだな。KMFの開発者であり、医療系にも明るい。ゼロの主治医だ」
「もちろん、会わせてくれるよね?」
「会わせなければ離さないんだろう、そいつを。全く面倒な男だな、お前も」
「君とゼロが信用しているのは解るけど、一応ね」
「って、だから待てよ!枢木だろうがなんだろうが、そいつは軍の人間だぞ!これ以上好きにさせるわけにいかねえ、ここでとっ捕まえてやる」

玉城が腕をまくりながら、スザクへ掴みかかろうとしたので、嫌々だが、私が二人の間に身を滑らせた。

「邪魔すんなよC.C.」
「このド阿呆が。お前ごときがこいつに勝てるわけがないだろう。それとな、今のうちに警告しておく。枢木スザクに手を出すな」
「はあ?」

その私の言葉に、玉城は驚きの声を上げ、四聖剣も驚き、私を見つめた。

「いいか、よく聞け。ゼロには3つの逆鱗がある。けして触れてはいけない逆鱗がな。逆鱗が何かは知ってるな?」
「それぐらい知ってるに決まってんだろ」

玉城の目の前で、私が指を三つ立て、ゆっくりと静かに言い聞かせるよう言うと、一瞬たじろいだ玉城が、そう口にした。

「一つは私だ。ゼロの共犯者であり、唯一ゼロが頼る存在。私と黒の騎士団、どちらかを選択しなければならない状況となった場合、ゼロは躊躇うことなく私を選ぶ」

私はそう言いながら指を一本折った。

「んなわけねーだろ!」
「いや、彼ならC.C.を選ぶと思うよ。今日初めて彼女とは会ったけど、その二択なら間違いなく彼は、彼女を選ぶ」

否定の声を上げた玉城の言葉に、スザクは当然だと私に同意の言葉を述べた。
あの、プライドの塊のルルーシュが、なにせ泣きながら助けを求めたのだ。あの場でスザクより私を選んだのだから、私を認めるのは当然か。
スザクの声には僅かに不満と嫉妬が混じっていて、それが妙に心地よかった。
玉城は、驚きと不満が入り混じった視線で、私とスザクを交互に見つめている。
私はさっさと話を終わらせるため、そんな玉城を無視して話を進めることにした。そろそろルルーシュが目を覚ましてもおかしくは無いのだから。

「二つ目は、ゼロの命ともいえる者だ。ゼロが生きる理由であり、ゼロがゼロとしてブリタニアと戦う理由。 ゼロの目的はブリタニアの崩壊と、その命ともいえる者の幸せと、平穏。それがもし失われれば、ゼロ自身が生きてはいられないほどの存在だ」

私はそう言いながら、二本目の指を折る。
その私の言葉に、スザクと藤堂は納得だと言いたげに頷いた。
玉城と四聖剣は、そんな二人の様子に、それが真実だと言う事が解り、口を閉ざし私の言葉に耳を傾けた。

「そして三つ目が、その枢木スザクだ。私とスザク、どちらかを選ばなければならない状況なら、ゼロはスザクを選ぶ。こいつはそういう存在だ。 思い出してみろ。ゼロがゼロとして最初に立った事件を。あれは、名を売るためだとゼロは言っただろうが、実際はこいつを助けるための物だ。藤堂の救出も、スザクの師匠だからという面が大きいだろう。 とはいえスザクは敵だから、戦闘中なら怪我をしようが死のうが、仕方ないと諦めるが、もしそれ以外でスザクに危害を加えたら、ゼロはその者を絶対に許さない」

私は最後の指を折った。

「何より、ブリタニアから日本を奪還する、その理由の根底には、スザクの故郷を取り戻す、という思いがある」

私の言葉に「え?」と、スザクが驚きに目を見開いた。
その様子に、私は思わず首をかしげた。

「なぜお前が驚く? お前は、あの当時のゼロとあの子にとって唯一の人間だった。他の薄汚い連中とは違い、お前だけが人と認識されていた。 あの二人にとって、お前は今でも大切な存在なんだ。そんなお前の故郷を奪われたからこそ、あいつは余計にブリタニアを憎んでいる」

その私の言葉に、藤堂は僅かに顔を曇らせ、視線を私たちから逸らした。
人身御供として殺すよう命じられた人間だからな、後ろ暗い思いはあるだろう。

「そう言う事だ。いまは枢木スザク個人とは停戦中だからな。間違っても、手を出すなよ?」

私はそう言い置いてから、スザクを連れてラクシャータの元へ向かった。
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