王者は誰だ 第3話   

女性の黄色い悲鳴と、男共の野太い声に、私達は冷や汗を流した。

「流石だな、ここまで盛り上がるか」
「あの、白いスーツの少年が、彼か?」

隣で顔をひきつらせている藤堂に、そうだと私は頷いた。
顔を俯かせて、椅子にベルトで縛られて・・・って、どんなプレイだ。

「恐ろしいだろう、この人気。枢木スザクが通学するようになったことで、普段妹にしか見せない優しい笑顔を人目に晒すようになってしまってな。おかげで人気は上がる一方だ」

私とカレンの話を、誇張しすぎだと笑っていた玉城でさえ、口をポカンと開け、その盛り上がりに驚いていた。
アイドルでも何でもない、ただの一般人がここまで人を引き付けているのだ。普通では有り得ない状況だった。
騎士団からは藤堂、卜部、仙波、千葉、朝比奈の旧日本軍5名を筆頭に扇、玉城、南、そして私がここに来ていた。当然だが生徒であるカレンもこちら側だ。
男7人女3人。何とかなるだろうか?
しかしだ、ルルーシュに何をした。ぐったりしているじゃないか。まさかその服着せたの、スザクじゃないだろうな!?
キッと、スザクの方へ視線を向けると、相変わらず爽やかな笑みを浮かべているが、私は騙されない。
その背にはドロドロとした嫉妬の炎が燃えており、その瞳には野獣の光が宿っている。
自分の物だと認識しているルルーシュに集る悪い虫を、今日この場で一匹残らず叩きつぶすつもりだな、あれは。
害虫駆除は嬉しいが、お前も害虫の一匹だと言う事を忘れるなよ?
お前には渡さないからな。それは、私の物だ。

『えー、はいはい?なになに?あら。ルルちゃんの妹のナナちゃんも参戦決定~。ナナちゃんは体の事があるから、特別にメイドのサヨコさんがサポートに付きます。 そして、え?これ本当ですかディートハルトさん』

その名前に、私達は一瞬体をこわばらせた。
見ると、ミレイに何やら耳打ちしているのは、黒の騎士団の団員ディートハルトその人。
そんな所で何してるんだお前は。

『なんとなーんと!今日この体育祭に黒の騎士団も参加するようです!!これは面白くなってきた―!ささ、騎士団の皆さん前へ!』
『ほらほら皆さん、そんな所に固まっていないで、前へ前へ』

にこやかな笑みでディートハルトまで手招きしている。
何だこれは、いいのかこれは、いやさすがに駄目じゃないのか。
まるでモーゼが海を割ったかのように、人が左右に解れ、私達が通る道を開けていく。
その様子を演台から見ていたスザクがこちらを見て「藤堂先生ー、こっちです、早く早く」と、それは嬉しそうに手を振った。
いいのかそれで。いいのかブリタニア。これは騎士団を捕まえる罠なのか?寧ろそのほうが現実として受け入れやすいのだが。

「行くしか、ないか」

藤堂は眉をしかめながら、腹をくくったのだろう、ゆっくりと足を前に出した。
その後ろに四聖剣が続き、幹部、そして私が殿だ。
演台の上にずらりと並ぶ騎士団。何だこれは。
私はそっとルルーシュを伺うが、ピクリとも動かない。どれだけ薬を盛ったんだミレイ。
思わず近寄り、ゆさゆさと肩を揺らすが、全然反応なし。でも、呼吸はしっかりしているから生きてはいるな。

『あの有名な<奇跡の藤堂>まで参加とは、これはひと波乱ありそうですね~。大本命はうちの生徒会役員にしてユーフェミア皇女殿下の騎士、枢木スザクだったけど、これは危ないかな~?』
「負けませんよ、藤堂先生」
「悪いが、勝負事で勝ちを譲る気は無い。全力で来いスザク君」

いいのかお前たち、何そこで爽やかな笑顔で、師弟の熱い会話を交わしているんだ。
キラキラした目で藤堂を見るな四聖剣と、枢木スザク。
そんな姿を観客、参加者たちは、暖かい視線で見つめている。
スポコン物か?スポコン物なのかこれは?いや違うだろう。何でみんなそんな目で見てるんだ。というか、テロリストグループ黒の騎士団の幹部勢ぞろいを当たり前のように受け入れてるが、いいのかお前ら。
ちらりと生徒会メンバーを伺うと、カレンはホッとした表情をしている。まあ、私達が来ているか不安だっただろうから、こちらは仕方ない。
他の生徒会メンバーは、スザクと藤堂のやり取りに、やはり目をキラキラさせている。新しい薬でも出回ったか?もしそうなら、リフレイン並みにタチが悪いぞ。
そんな不可思議な空気を打ち破ったのは、一人の女性の声だった。

「おまちなさい!黒の騎士団に我が騎士が負けるなど、あってはなりません!スザク、必ず勝ちなさい!」
「イエス・ユアハイネス!・・・ってユーフェミア様!?」

凛とした姿で立っていたのは副総督のユーフェミア・リ・ブリタニアその人で、人々の目はそちらに釘付けとなった。
だが、ユーフェミアが着ている物はジャージで、鉢巻きまで巻かれている。どう見ても参加する気満々である。

「はい、来ちゃいました」

小首をかしげながらそういうユーフェミアだが、来ちゃいました、じゃないだろう。
ニーナが壊れたように「ユーフェミア様ぁ―」と手を振って叫んでいるが、これは視界に入れてはいけない。精神衛生上宜しくない。
だが、問題はそれだけではなかった。

「ユーフェミアが、どうしてもアッシュフォードの体育祭に参加したいと言うのでな。我々も来たのだが、まさか黒の騎士団も来ているとはな」

威厳を漂わせ、凛とした声音でユーフェミアの後ろから姿を現したのは、このエリア11総督コーネリア・リ・ブリタニア。
だが、その着ている服はジャージ。しかもあずき色。その服装が全てを台無しにしていた。もちろん鉢巻きも付けている。
コーネリアの後ろにはダールトンとギルフォード。ロイドとセシル、ジェレミアとヴィレッタの姿も見える。全員ジャージに鉢巻きだ。

『な、なんと!ブリタニアの誇る麗しの皇女姉妹、コーネリア皇女殿下とユーフェミア皇女殿下、そしてブリタニア軍の方々のまで参加されるようです!これはブリタニアVS黒の騎士団の対決は避けられないっ!』

ミレイはノリノリでブリタニア軍も演台へ招いた。
ブリタニア側は男5人女4人。
黒の騎士団側は男7人女3人。カレン1人分まだ勝ってるな。
って、いやいや待てお前ら、いいのかホントに。この流れに付いていけないのは私だけなのか?私がおかしいのか?

「待ちたまえ!それでは黒の騎士団の人数の方が多い。私も参加するぞ」

まるで私の思考を読んだかのような声が、辺りに響いた。
何処から声がしたんだ?と、きょろきょろあたりを見回すと、ルルーシュの後ろ上空に見てはいけない物が見えた。

「クロヴィス!」
「クロヴィスお兄様!」
「久しぶりです姉上、しばらく見ない間に美しくなったね、ユフィ」

キラキラと、背中に花を背負っているかのようなその姿は、見間違えるわけはない。前総督クロヴィス・ラ・ブリタニア。
ってお前、死者だろ!死んでるだろ!半透明で浮いてるぞ!いいのか、おい!

『おおーっと、クロヴィス殿下が死者の垣根を越えてのご登場!前総督、現総督、副総督とエリア11と関わり深い皇族が一同に会しました!これはまさに奇跡です!』

奇跡で済ませるのか。いいのかそれで。だが、周りはおおー!っという歓声は上がるが、疑問を浮かべる者は私以外いないようだ。
ルルーシュ、起きてくれ。私の心が折れそうだ。
・・・って、もういい、それは置いといてだ。
ルルーシュとナナリーもいるから、皇族が5人も揃っているんだが大丈夫か、ここ。




こうしてブリタニアVS黒の騎士団・・・もとい、体育祭が始まった。
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