王者は誰だ 第4話   

『では、ルールを説明します。参加者は生徒会役員から、ナンバープレートを受け取って衣服に必ずつけてください。プレートの裏側には、スタンプが押せるようになっています。コースの各ポイントに教師が立っていますので、そこでスタンプを必ず貰ってから先に進んでください。ただのチェックポイントもありますし、特定のお題をクリアしないとスタンプが貰えない場所もあります。全てのスタンプが押され、この演台上にあるテープを一番最初に切った方が優勝です。惜しくも優勝を逃した方々も10位まで賞品が出ますので、諦めずにゴールを目指してね!』

カレンとニーナ、スザクがナンバープレートを配っているので、それを受け取り、安全ピンで胸の位置に止め、リヴァルとシャーリーが誘導しているスタート位置へ移動した。

『え、うんうん。そうねー。うん、そうしましょう!黒の騎士団及びブリタニア軍関係者は、他の方たちのスタート後、5分たってからのスタートとします。ハンデがないと、一般の方たちに勝ち目無いですからね』

カレンに何やら耳打ちされていたミレイがそんな事を言い出した。確かに軍人が混ざってしまえば一般人に勝機は無いが・・・まて、そう言う事か。あくまでも生徒会役員として、一般人としてカレンは参加する。ということは、カレン一人5分早く動けると言う事か!でかしたカレン。

「私は、一般人に混ざってもいいのかしら?」

可愛らしく首を傾げて聞いて来たのはユーフェミア。

「コーネリア様はともかく、ユーフェミア様は軍人ではないですし、一般人と一緒でいいのでは?」

スザクが演台の上でミレイにそう言ったが、ミレイは首を大きく横に振った。

『甘いわ。甘いわよスザク君。妹っていうのはね、お姉ちゃんの真似をする物なの。コーネリア様の毎朝の鍛錬に、幼いころから真似をしていたユーフェミア様はあの運動量に平然とした顔でついていくのよ。運動神経は皇族イチとも言われているの。皇室では有名な話だけど、知らなかった?』

コーネリアの鍛錬の量も凄まじかったが、汗だくで苦しげな姉の横で、にこにこ楽しげに同じ量をこなすユーフェミア。ある種ホラーだったわね、あれは。昔見た光景を思い出したのか、ミレイはうっすらと笑った。
だが、コーネリアの妹フィルターは、あくまでもユーフェミアは自分より弱く、守らなければいけない対象に見えるのだ。
そんなシスコン・コーネリアが守り、可愛らしいお姫様として育ててきたのだ。何も知らない国民は、ユーフェミアはか弱いというイメージが深く根付いている。

そのイメージが、覆る。

「あら、ばれちゃいました?」

にこにこと笑うユーフェミアに皆の視線が集まる。そして気が付き、背筋が震えた。その優しげに細められている目が、全く笑っていないのだ。弱肉強食が国是のブリタニア。その頂点たる皇族が弱いはずがない。
見た目がどんなにか弱くても、その中身は猛獣。
勝負となったからには、勝たなければいけない。それがブリタニア。
コーネリア、ユーフェミア、どうやって着換えたのかは解らないが、ジャージを着たクロヴィス(幽霊)。彼らの背には、王者たる獅子の幻覚が見えたと言う。
全員にナンバープレートを配り終わった生徒会メンバーも、生徒会長ミレイと、副会長で賞品のルルーシュを除き、全員がスタート位置へと移動した。

「よーしっ!待っててねルルーシュ、僕が必ず勝つから!」

君に集る害虫は、この機会に全部始末するから、安心してね。
人のよさそうな笑みを浮かべ、だがその背には不穏な空気を漂わせながら、スザクは肩を解す様に回した。もちろんスザクは後方、5分後のスタート位置へむかう。

「ハンデがあるんだし、もしかしたら勝てるかもしれないよね!」

水泳部にも所属している体育会系シャーリーは、真剣な顔で腕まくりをした。

「俺が勝ったら、そうだな―。次のテストで高得点取るための練習問題作ってもらおっかなー。もっちろん、俺にも簡単に理解できるように、解りやすくかつ、短時間でできるやつ!」

まあ、勝てなくてもいいんだけど。と、優勝を目指していない気楽なリヴァルはにこやかに笑った。

「わたし、ルルーシュ君に核融合の実験、手伝ってほしいな」

体力面では無理でも、知力面には自身のあるニーナは、助手にルルーシュを迎えるため、その知力をフルに使うつもりのようだ。

「わたしは今度料理、教えてもらおうかしら。彼、上手よね」

他のメンバーは前方、一般のスタート位置だ。

「待って、君何処に行く気?」

がしりと腕を掴まれて、カレンは立ち止まった。
腕を掴んでいたのは、既に後方に行ったと思っていたスザク。

「どこって・・・スタート位置に。今日は体調もいいから、参加しようかと」
「君のスタート位置、そこじゃないでしょ?ほら、一緒に行こう?」

そう言いながら、ぐいぐいカレンの腕を引っ張ってきた。

「え?スザク君?どうして私までそっちに?」

困ったような顔で、カレンはスザクを見上げ、そう言った。

「後方は、黒の騎士団と、ブリタニア軍の方のスタート位置よね?」

スザクの腕をどうにか振り払い、カレンは一歩後ろに下がった。

「そうだぞスザク、お前一人で寂しいからって、カレンを連れていくなよ」
「そうだよスザク君。カレンを君たちと一緒にしちゃダメだよ」
「カレンは体弱いんだよ、スザク君」
「え?」

掴まれた場所をさすりながら、怯える様にスザクを見ていたカレンを、生徒会メンバーが守るように立ちふさがった。その様子に、どうしてそんな事を言われるのか解らないと言う顔で、スザクはカレンを見た。

「えーと、別にそれで通すならそれでもいいけど?演台で僕に向けてた視線で、カレンはてっきり勝ちを狙ってるんだと思ったから」
「ええ、参加するのだから、優勝は狙うけど?」

当然でしょ、ゼロを守るのは私よ!
穏やかな笑みを浮かべるカレンの背には、牙を隠した虎の姿が見える様だった。 その時が来るまで牙と爪を隠し、猫のように大人しく穏やかな表情を見せる虎。
その様子に、スザクはすっと目を細めた。

「そうなんだ?そのままで?まあ、僕としてはその方が助かるけど、スタートした途端に、素に戻らないよね?正義の味方がそんな卑怯な事、するはずないかな?」

いつもの人のいい笑みを捨て、不敵な顔でにやりと笑うスザクの後ろには、飢えた狼の姿が見えるようだ。自分を邪魔する者は排除する。たとえどのような手を使ってでも。それが強敵であるなら尚のこと、その秘密を暴露してでも。カレンは、欲に飢えたその狼の視線に、一瞬たじろいだが、負けてなるものかと、目をすっと細めた。
そう、私達は正義の味方。言われなくても解っているわよ。ここでばらされた以上、スタートしてから紅月カレンに戻ったら卑怯者と罵られる。私が、では無い。ゼロが。

「あーもーわかったわよ!後ろに行けばいいんでしょ後ろに!」
「え!?カレン!?」
「ちょ、え?カレン!?」
「ええ!?」

カレンは、今まで学生生活では出した事のないような、腹からの声を出し、眉根を寄せてスザクを睨んだ。
いつも頼りなげな佇まいだったその姿も捨て、胸を逸らせ、力強くその場に立つ。

「枢木スザク、優勝は絶対に渡さない。覚悟しなさい」
「紅月カレン、これでハンデは無しだ。君に負けるつもりは無い」
「はっ!何が負けるつもりは無いよ。私は黒の騎士団零番隊隊長紅月カレン。今日こそスザク、貴方と決着を着けるわ!」

今まで押えていた殺気と闘気が全身からあふれ出す。
猫を被っていた虎が、牙を剥いた姿がその背に見える様だった。
カレンとスザクの間に、火花がバチバチと飛び散り、周りに居た人は、巻き込まれたくないと、その周辺から遠ざかった。

『おおーっと!ここでなんと重大な秘密が明らかに!?わがアッシュフォード学園生徒会役員カレン・シュタットフェルトがその本当の姿を現した!普段は病弱で麗しいお嬢様、だけどその裏の顔はなんと、黒の騎士団ゼロの親衛隊隊長紅月カレン!!枢木スザクの騎乗するランスロットと幾度も死闘を演じた、紅蓮弐式に騎乗するエースパイロットだー!』

おおー!!っと、男たちの声が上がった。
いつもの御淑やかな姿もいいが、勝気なその姿も素敵だ!そんな声があちらこちらから聞こえてくる。


黒の騎士団 紅月カレン VS 神聖ブリタニア帝国 枢木スザク


どちらが勝つんだ!?俺、スザクに入れる。じゃあ私はカレンに。
既に勝ちを諦めている人々の間から、そんな声が上がり始めたのは、当然の流れだった。

『人間競馬大いに結構!やるなら私が仕切るわよ!一口100ブリタニアポンド!リヴァル!あんたどうせ勝てないんだから、こっちに戻って来て手伝って!』

他の女性陣を呼ばず、自分が呼ばれた事を情けなく感じつつも、ミレイに頼られた、ミレイと二人で進行、という美味しい状況を断る男ではなかった。

「今行きます会長!!」

満面の笑みでリヴァルは演台へ戻っていった。


演台には、あっという間に人がたかり、電光掲示板には次々表を入れられた参加者の名前が表示されていく。この辺はコンピュータープログラム部と乗馬部が絡んでいるらしく、バタバタと彼らが走り回る姿が見られた。どうやらこの状況、ミレイは予想済みだったらしく、馬券ならぬ人券の準備もしっかりとされていた。
おそらく大会に参加しない代わりに、進行を手伝えば部費アップ、といったところか。


そして、予想通りと言うべきか。
1番人気 枢木スザク
2番人気 紅月・カレン・シュタットフェルト
3番人気 藤堂鏡士郎
4番人気 ユーフェミア・リ・ブリタニア
と、話題に上った人たちの名前が続いた。




その人気順もまた、彼らの闘争心に火を着ける。
上位3人が日本人だ。いや、枢木はブリタニアの騎士、シュタットフェルトはブリタニア人だ。やはり日本が、いやブリタニアが。
前に一般人(既に半数以上脱落)後ろにギスギスした空気を漂わせる黒の騎士団&ブリタニア軍。
スタートまであと少し。
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