王者は誰だ 第5話 |
C.C.はこの状況に頭を抱えていた。 藤堂に続き、お前もかカレン。熱血バトルを始める気か。って、いいのかお前、日本人だってばれて。ぎゃんぎゃん喚きながらスタート地点へ向かってくる犬二匹・・・もとい、紅月カレンと枢木スザクを見て、私は深いため息をついた。 人間競馬の準備も終わり、ようやく辺りが落ち着いてきた頃、ミレイが片耳を指で塞ぎ、もう片手を空へ向けた。 『みなさーん、準備はいいですか?これより、アッシュフォード学園体育祭、ルルーシュ争奪サバイバル☆レースをスタート致します。位置について、よーい!』 パーンと、辺りに響き渡る空砲と共に、前方スタートの人々が一斉に走り出し、目を血走らせた男たちを先頭に、人々の姿がどんどん遠ざかっていった。 5分。長いようで短い。あの一般人と学生たちが何処までやれるかは解らないが。こちらの人外達に太刀打ちできるだろうか。私はまだスタートしていないと言うのに、険悪な空気をぶつけあう後方スタートの面々を見回した。 いや、この5分短いようで長いぞ。後5分この中に居るのか私は。 演台のルルーシュは相変わらずぐったりしていて、私としては早く目を覚まして、その暴走お祭り娘をどうにかしてくれと祈る。 いや、ここまで盛り上がった時点で、流石のルルーシュでも無理だな。 知力・体力・時の運。 スザクは頭は悪くは無いが、義務教育を10歳までしか受けていない。カレンはしっかり学んでいる上に、頭もいい。これはカレンの勝ちだ。 体力面ではやはりスザクに軍配が上がる。銃弾さえ見切り、反射神経でかわすような奴に、誰が勝てるんだ。 あとは運か。 この世界の神がアレだと知っていても、ここは神に祈りたい気分だ。 『さーて、本命集団。黒の騎士団とブリタニア軍の皆さま!準備はいいですか?』 再びミレイは方耳を指で塞ぎ、もう片手を空へ向けた。 『では、5分経ちました!いきますよ~?位置について、よーい!』 パーンと、辺りに響き渡る空砲と共に、問題児たちは走り出す。 人外の早さで駆けだしたのはスザクとカレン。予想通りだ。 私はどうせ無理をしても追いつけないのだから、勝ちは目指すが、知力と運と年の甲に掛けることにした。 【第一関門 校舎を一周する】 これはただのチェックポイント。 頭を使う事は何一つなく、その為、先頭を走るのは体育会系ばかりだ。 既に見えない先頭を追いかけながら、頭を使う場所が着たらきっと追いつける!とシャーリーは気持ちを前向きに保ったまま走っていた。 【第二関門 屋上まで階段で上る】 よし、問題無し!ちょっと疲れてきたけど、私頑張るから! 屋上へ息を切らせながら登ると、何やら困った顔の先生がスタンプを押してくれた。 そして、先生が促す先へと足を進めると、次の関門がそこに待っていた。 【第三関門 貴方の好きな人の名前を大声で叫んでね☆】 そうデカデカと看板に書かれていて、シャーリーは顔をひきつらせた。 「いきなりこれですか~」 今回のレースの内容に関しては、生徒会メンバーでさえ知らされていない。 全てミレイと、今回の協力者である乗馬部、プログラム部が用意していた。 看板の奥には長い行列が出来ていて、その先に一つのロッカーが何故か鎮座している。ロッカーの横に居る先生も、どうしたものかと困った顔をしているが、とりあえず人名らしきものを言った人に判を押しているようだ。皆そのロッカーの中に顔を入れ、好きな人の名前を叫んでいるが、その声は周りに全部聞こえていた。意味無いよそのロッカー。はっきり言って、屋上から好きな人を叫んでいるのと何も変わらない。 成程、ここで撃沈している人が多いわけだ。 適当な名前を言えばいい。そう思っていても、万が一その名前の人がここに居たら?勘違いされたら?言うなら本当に好きな人の名前を言いたい。だけど言えない。知られるのは恥ずかしく、怖い。そんなジレンマ。 かと思ったが。 「副会長!」「ルルーシュくん!」「ナナリーちゃん!」「ランペルージ!」その名前を上げた人たちが、次々沈んでいく。え?なんで? よく見ると、爽やかな笑顔のスザクがロッカーの横に居た。え?いつの間に私、追い越されたの!? ランペルージ兄妹狙いの人間が次々打倒され、屍の山が出来あがる。 その様子に、私の前の人たちが次々と列から離れていった。 あ、皆二人狙いだったんだ。ホントに敵多いな~。 そして、私の番。 ドキドキして、足が竦みロッカーになかなか近付けない。 爽やかな笑顔のスザク君がこちらを見ている。 その顔でこれだけの屍を生みだしたのだから、ホントに凄いよね。 私も殴られるのかな?痛いのは嫌だな。でも、私が好きなのは! 私は良し、と深く息を吸い込んだ。 「ルル!」 両目をつぶり、決死の思いでそう言った。 怖くて目を開く事が出来ず、そのまま立ちつくして、待つ事数秒。 あれ?何も起きない? 「シャーリーどうしたの?早く判を貰って先に行きなよ?」 目を開けると、キョトンとした表情で、スザク君が先を促してきた。 「え?あ、うん。先行くね?」 なんだか顔の青い先生から判を貰った。よし3つ目。 私は次の場所へ向かう為、走り出した。 その後ろでは、私の後に続いた人たちが再びスザク君に沈められていたが、私は気にしなかった。 「流石に、シャーリーは殴れないよ。いくら僕でも、ルルーシュが怖い。まあ、彼女には負けないし、ここは見逃すしかないよね」 笑顔でそう言いながら「副会長!」と叫んだ男の襟元を掴みぽいっと屋上の隅へと投げ捨てた。 って、何してんのよアンタは! あっという間にスザクに置いて行かれ、必死にここまでやってきたカレンは、人の良さそうな笑みを張りつけながら、屍の山を築いている男を睨みつけた。 スザクとしては、後方組以外敵ではない。 だから、一番にここに着いた時、聞こえてきたルルーシュとナナリーの名前に、つい立ち止まってしまったのだ。 再び枢木スザクによる選別が始まったため、私の前に並んでいた者は、次々に列から離れていった。当然の反応よね。 だが、私は怯むことなく、ロッカーの前に立つ。 そんな私を見て、流石のスザクもその表情から笑みを消した。 スザクを横目に、私はロッカーを開き、叫んだ。 「ルルーシュ・ランペルージ!」 その名前に、スザクは驚き目を見開く。 「なっ、何で君がっ!」 「何?私ならゼロ、と叫ぶと思ったの?お生憎様。私、ルルーシュも好きなのよ?今日は彼の争奪戦だし、彼の名前を呼ぶべきよね?」 ゼロの中身はルルーシュだもの、どの名前で呼ぼうと、対象は唯一人。気が多いわけじゃないんだからね。 不愉快そうな顔でにらんでくる男に、私は腰に手を当てながら、胸を逸らして、見下すように不敵に笑った。 そんな私に苛立ったスザクは、殺気を隠すことなく、私との間合いを測り始めた。一般人なら腰が抜けるだろうその殺気を、私は難なく受け止める。ふん、あんたなんか全然怖くないんだからね。 「何?私にも暴力をふるうの?曲がった事は嫌いだとか、正しい事をとか、過程が大事だとか、えらっそうな事言ってるくせに、やってる事はこれな訳?正々堂々と勝負するべき体育祭で、気にいらない相手に暴力って。あんた、スポーツマンシップって言葉知らないの?こんな、イベントの進行妨げることして、ルルーシュが起きたら、怒られるわよ確実にね」 その私の言葉に、スザクは顔を真っ青にし、ガクリと膝を崩すと地面に両手をついた。 まさに orz ←これ 「僕は・・・俺は・・・」 ぶつぶつと何やら呟き始めたスザクをその場に放置し、私は呆然と見ていた先生に、プレートを差し出した。 「先生、押してください」 「あ、ああ。頑張れよシュタットフェルト」 青い顔をしながら、それでも私がスザクをやり込めたからだろうか、嬉しそうな顔で先生がスタンプを押してくれた。 「あ、先生、その粗大ゴミ、弄らないでくださいね。立ち直るとまた面倒なので」 「ああ、解った」 力強く頷いた先生に背を向け、私は走り出した。 私の後ろからは「ルルーシュ君」「副会長」「ランペルージ」「ナナリーちゃん」という声が次々上がっていた。 「やけにルルーシュと言う名前が聞こえるな。ふむ、あの副会長と呼ばれた男は、そこまで人気があるのか」 コーネリアは長い行列に並びながら、顎に手を置いた。 「当然だな。頭もよく見目麗しい男だ。人気が出ないはずがない」 その後ろに並んだ私は、腕を組み自慢げにそう答えた。 そんな私達の会話を、全てを知る藤堂はハラハラとしながら覗っている。 不思議な話だが、コーネリアやクロヴィスは、あのルルーシュ・ランペルージが、死んだはずの弟、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだと考えてすらいないようだ。 ナナリーの名前にも特に反応は無かったように見える。 私たちからすれば、都合のよすぎるこの状況に、やはり何かしらの意思を感じてしまうのだが、気にし過ぎだろうか。 そんなこんなで、ようやく私達の番が回って来たのだが。 「おい、コーネリア。さっさと行け」 「ええい!わかっている!」 口ではそう勇ましい事を言うコーネリアだが、石のようにそこから動かなくなってしまったのだ。私の後ろにいるギルフォードが、その様子をハラハラしながら見守っていた。 ちなみにユフィはニーナに捕まり、藤堂・千葉の後ろに居た。 順番的にはこうだ。コーネリア・C.C.・ギルフォード・藤堂・千葉・ユフィ 以下略。 ん?幽霊のクロヴィスは何処に消えた?ああ、最後尾か。幽霊のくせに足が遅いとか、お前浮いてるんだから飛べばすぐだろ。壁抜けはどうした、影が薄いんだから、せめて先頭集団に絡め。 そんな事を数秒で考えて暇を潰していたが、未だにコーネリアは動かない。 ロッカーの横で orz ←こんな感じの枢木スザクを見るのも流石に飽きてきたな。 仕方ない。私が動くか。 「コーネリア、私に考えがある。順番を変わってくれないか?」 「考えだと?」 「ああ。任せておけ」 私の真剣な声音に、仕方がないとコーネリアが場所を開けた。 「どうて・・・もとい、ルルーシュ!」 そう叫ぶと、私はさっさと教師の方へ行き、スタンプをもらう。 「おい、教師。コーネリアは皇女だ。その皇女がこんな場所で相手の名前を言った場合、その相手はどうすればいい?しかも、それがコーネリアの部下だった場合、どうなると思う?」 「どう、と言われても・・・光栄だとしか」 「そうだな、皇女殿下に慕われれば光栄だ。たとえ恋慕の念を抱いていなくてもな。だがな。コーネリアも女なんだ。権力で惚れた男を落としたくは無いんだよ」 「はぁ」 そこで、私は教師の耳元に唇を寄せた。 「いいか、これは他言無用だぞ。コーネリアの想い人は騎士、ギルフォード。そしてギルフォードもコーネリアを慕っている。が、二人の間には複雑な問題が山積みでな。皇位継承権争いにも関ってくる大きな問題だ。 そのため互いに思いあっていても、口に出来ない。ここは、穏便に済ませるため、コーネリアとギルフォードには判を押してやれ。ああ、ブリタニア側だけではずるいか。ならば騎士団側の藤堂と千葉も押してくれ。これで問題は無くなる」 その私の話に、教師はこくこくと頷いた。 この馬鹿な雰囲気で忘れそうだが、相手は皇族。無理は出来ないと、ちゃんと理解したようだった。その反応に私は満足し、くるりとコーネリア達へ振り返った。 「おい、コーネリアとギルフォードちょっと来い。お前達二人は免除だ、さっさと押して先に行け。ブリタニアだけではずるいからな、藤堂、千葉。お前らも押してもらえ」 その言葉に、四人はホッとした顔で列から離れて教師からスタンプを押してもらった。すまない、とぽつりとつぶやき、コーネリアはギルフォードと共に屋上を後にした。 その反応に私はニヤリと口角を上げる。 コーネリアは知らないだろうが、千葉はともかく藤堂は動けなくなるのは目に見えていたのだから、こちらとしても都合がよかったのだ。いい順番で並んでいた物だと、私はほくそ笑みながら階段を駆け降りた。 「スザク、何をしているのですか?」 ユーフェミアのその声で、スザクはのろのろと顔を上げた。 「ユーフェミア、様?」 「ユフィですスザク。何か探し物ですか?」 キョトンとした顔で、僕の顔を伺うユフィに、ハッと息を呑んだ。 「なんでユフィが此処に?あれ?カレン!?カレンは何処に!?」 僕は慌てて立ち上がると、周囲を見回した。 そこには、僕が積み上げていたはずの害虫・・・もとい、生徒の山は既に無く、ユフィをはじめとした後方スタート組が列を成していた。 「カレンと言うと、ゼロの親衛隊長ですね?私が階段を上る頃にすれ違いましたけど?」 しまった。カレンの言葉に動揺しすぎて、我を忘れてしまっていた。 どれだけ時間が経ったんだ?カレンはどこまで進んだ? 「大丈夫ですか? スザク」 顔を青ざめていた僕を気遣うように、ユフィが声をかけてきた。 「大丈夫です。ユーフェミア様」 安心させるようににっこり笑うが、まだ顔が引きつっていた。その不自然な笑みが、更に彼女の不安を掻きたてたらしく、真剣な瞳で僕を見上げた。 「スザク、無理はいけません!」 「いえ、無理はしていませんし、今、十分休みました。貴方の騎士である僕が負けるわけにいきません。失礼します」 僕はユフィの制止を振り切って、屋上を後にした。急がなければ。 このままではルルーシュを取られてしまう。そんなことは許さない、あれは俺のものだ。誰にも渡さない。これ以上奪われてたまるか。 |