王者は誰だ 第6話   

【第四関門 グラウンド1周】

体育会系男子が走る中に、見知った女子の背中を見つけた。
私が病弱では無い事は、既にばれてしまった。つまりそれは、私がずっと彼女たちを騙していたということ。ごくりと固唾を呑んだ私は、その背中に追い付くと、彼女の横に並んで走っる。長い茶色の髪の毛のその少女は、息を切らせながら、横に並んだ私を驚きの眼差しで私を見た。

「シャーリー、あなた結構やるわね」
「あ~もう、カレン、もう来たの!?早いよ~」

あまりにも、いつもと変わらない表情と口調に私は驚き、まじまじとシャーリーを見つ詰めてしまった。

「も~、毎日運動してるから、ちょっとは自身あったのに~カレン相手じゃ勝てないよぉ」
「シャーリー貴方、私が怖くないの?ずっと嘘ついて騙してたのよ?黒の騎士団なのよ?」
「え?病弱じゃないのは気付いてたよ?だってカレン良い筋肉してたもん。だから何か理由があるんだって思ってた。だけどまさか黒の騎士団だとは思わなかったよ」

はあはあと息を切らせながら、一周を周り終え、私とシャーリーはスタンプをもらった。

「会長も気づいてたよ?本当に騙す気なら、もっと筋肉落とさなきゃだめだよ」
「そ、そうなんだ」

言われてみれば、病弱な深層の令嬢が、こんなに引き締まった体のはずは無いか。
全然気にしてなかったわ。

「って、その話は後にしよ?カレン、優勝目指してるんだよね?悔しいけど、応援するからね!変な人に優勝なんて、させちゃ駄目だからね!」

シャーリーの声援を受けて、私は「うん、任せて!」と、明るい声で返事をした。

【第五関門 綱渡り(100m)】

「む、来たかスザク君!」
「藤堂先生!勝負です!!」

めらめらと背後に炎を揺らめかせ、男二人がロープの上で対峙した。ブリタニア軍と黒の騎士団用に急遽用意された100mの綱渡りロープは1本のみ。ちなみに他の人たちは5mの平均台1個渡るだけなので、サクサクこの場を超えていた。既に前に進むのではなく、相手を落とす事に専念し始めた二人を見ながら、私は教師の元へ行く。

「おい教師。あのままだと後続の私達は何もできないんだが?別の道を用意してくれないか?」
「別の道、ですか?それは」
「敵対勢力が顔を合わせば、こうなる事は目に見えていたはずだ。それなのにブリタニア軍、黒の騎士団それぞれ別にロープを用意しなかった運営側の落ち度だろう? まだ皇族であるコーネリアもユーフェミアも、クロヴィスでさえ渡っていないんだぞ?あの三人もここで待たせるつもりか?」

C.C.はまたしても最強のカード、<皇族>を発動した。

「今は見ての通りあのロープは使えない。ならば私達には仕方がないから、一般人同様平均台クリアでスタンプを押すべきだ」
「は、はい。そう致します!」

最強のカードには逆らえない!教師はC.C.の意のままに動いた。

「藤堂、スザクの足止めは任せたぞ」

C.C.は誰にも気づかれないうちに、さっさと平均台をクリアし、先を急いだ。

【第六関門 鐘楼棟を登る】

きつい。流石に辛くなってきた。延々と登り階段の続く鐘楼棟を、私はゆっくりなペースとはいえ、どうにか駆けあがっていた。
言っておくが、けして年のせいではない。私は永遠にぴちぴちの16歳だ。
階段の端には、体力の切れた運動部の連中が、息を切らし座り込んでいる。
鐘楼棟に入る前に、駆け降りてきたカレンとすれ違ったが、こいつらは体力切れと言うよりも、もしかしたら彼女に追い越された事で勝機が見えなくなり、諦めたのかもしれないな。こいつらの目当ては何せルルーシュだ。ルルーシュにあーんなことや、こーんなことをさせようと、妄想を膨らませてここまできたに違いない。中にはランペルージ、とか副会長、とか呟きながら涙する男もいたが、私は何も見ていし聞いてないからな。
しかし、こんな美少女が息を切らせながら階段を上っていると言うのに、見もしないのかお前ら。
まさか女より男がいいのか?いや、ルルーシュを男の枠に括るのは間違いだが、何か悔しいぞ。ああ悔しいとも!
そんなむさ苦しい階段を半ばまで駆け上がっていると、物凄い地鳴りと共に、一陣の風が背後から吹き抜けた。
一瞬見えたのその背中と、そのくせ毛。
もう来たのか枢木スザク。
だが、一向に折り返してこないスザクに、何かあったのか?と思いながらも最上階で教師からスタンプをもらい話を聞くと、スザクはスタンプをもらうとすぐに窓から飛び降りたらしい。
凄まじい執念だな。あいつの独占欲はシャレにならん。・・・カレン頼む頑張ってくれ。お前だけが頼りだ。

【第七関門 乗馬】

「黒の騎士団とブリタニア軍の方は、馬に乗って敷地内1周してください」

その言葉に、私は黒毛の馬に跨った。
その時、ざわざわと、後方で人々のざわめきが聞こえ、私は馬上で振り向いた。
見えたその姿に、思わず眉を寄せた。

「スザク、もう来たの?」
「ようやく追いついたよ、カレン」
「あんた馬に乗れるの?」

スザクはざっと馬に視線を向けると、白毛の馬を選んだ。

「当然だろ?僕は元とはいえ首相の息子だよ?」

そう言えばそうだった。私が今は貴族の娘であるように、こいつは昔いいとこの坊ちゃんだったのだ。
スザクがにこにこと微笑みながら馬に近づくと、馬は嫌がるように鳴いた。
そんな殺気を纏って、顔だけ笑みを浮かべた所で、動物は騙されないわよ。

「御先!」

私は少しでも距離を稼ぐため、馬を駆った。


僕は、にこにこと笑顔で馬に近づくが、馬は警戒し、身を引いた。
周りの馬を見回すが、どの馬も同じようだった。
なら、どの馬を選んでも変わらないか。最初に選んだ白毛の手綱を乗馬部部員の手から取った。手綱を引き、それ以上馬が逃げられないようにし、僕は馬と視線を合わせる。

「・・・少しの間、我慢しろ」

僕は笑顔を捨て、そう低い声で言うと、ようやく白毛は大人しくなり、僕はその背に乗った。うん、素直でよろしい。最初からそうしてくれればいいのに。

「まったく、いらない時間を使ったな。さ、急ごうか?」

僕がやさしく首をぽんと叩くと、白毛はものすごい速さで駆けだした。

「え?何!?何なのよ!?」

死に物狂い。まさにそんな体の白毛が後方に迫ってきた。
私の乗る黒毛は、そんな白毛の様子に怯えたのか、走りがぎこちなくなる。
いや、これは白毛に怯えているわけじゃない。スザクだ。スザクを畏れているんだ。
あっという間に必死の白毛は私に追い付いた。

「御先に」

にっこりと爽やかな笑顔を残し、スザクは私を追い越した。
走りたくない、追い付きたくないと怯える黒毛をどうにか宥めながら、私が1週を終えた頃、既にスザクの姿は無かった。

【第八関門 計算】

「まさか、こんなに早く会えるとは思わなかったわ、スザク」
「くっ、カレン。もう来たのか」

1階の教室に用意されたその場所に足を踏み入れると、うんうん唸りながら何やらテストを受けているスザクがそこに居た。
教室の前方に居た教師からプリントを受け取ると手近な机を選び、椅子に腰掛ける。

なになに?問1、次の台形の面積を求めよ。
・・・馬鹿にしてるの?
私はさらさらとペンを滑らせた。

問2、次の計算をせよ。
分数×分数 と 分数÷分数・・・小学生か。

そんな問題ばかりなので、ペンは止まることなく、あっという間に全問記入を終え、先生へと手渡す。
その場で採点され、もちろん100点満点。

これで何を悩むんだろう?と、スザクの様子をちらりと見ると、台形の面積で既に詰まっていた。
本気なの?本当に解らないの?そこまで馬鹿なの?
ああ、そう言えばこいつ、10歳までしか義務教育うけてないのか。
その後いきなり高校だから、この辺りってもしかして完全に飛ばしてるのかな。
今のうちに距離を稼ごうと、私はさっさと教室を後にした。


「スザク、まだここに居たのですか?」
「ユーフェミア様・・・」

この問題とにらめっこしてどれぐらい経っただろう、気が付いたらニーナを連れたユフィが教室に入ってきていた。プリントを手に、ユフィは僕の横に座ると「あらスザク、こんな問題も解らないの?」と、くすりと笑った。

「そう言えば、スザクは10歳までしか学校に通ってなかったわね。いい、これはね・・・」

一つ一つを丁寧に説明するユーフェミアと、真剣にその説明に耳を傾け、問題を解く騎士。それはとても絵になる姿だったが、ユーフェミアの横の席に座ったニーナの、鬼のような嫉妬の形相が全てを台無しにしていた。

「でも、これはこれで味があるな。ジェレミア、ヴィレッタ」

クロヴィスがそう言うと、ジェレミアがクロヴィスへ背を向け少し前かがみになりながら立った。

「クロヴィス殿下、これでよろしいでしょうか」

よく見ると、その背中にはスケッチブックが括りつけられていた。
クロヴィスの横に膝をついたヴィレッタは、恭しく何やら箱をクロヴィスに差し出す。
その中には色鉛筆が入っていた。

「よし、その位置で動くなジェレミア。うんうん、ユフィと枢木が二人並んでいる姿はとても創作意欲を掻きたてるね」

クロヴィスは既に体育祭を放棄し、創作活動に入ったため脱落。
そして、それに付きあわされてジェレミアとヴィレッタも脱落。
仙波が腰を痛めたため、卜部は付添で共に脱落。
他騎士団幹部は運動不足により全員鐘楼棟で脱落。
ロイドとセシルはスタート地点で皆を見送った後、液晶に映し出されるチェックポイントを見ながらゆっくりお茶を飲んでいたため、もちろん脱落。

『というわけで、現在残っているブリタニア軍はスザク、コーネリア皇女殿下、ギルフォード卿、ダールトン将軍、ユーフェミア皇女殿下。  黒の騎士団はカレン、C.C.さん、藤堂さん、千葉さん、朝比奈さん。なんと、どちらも5名!!残りの関門は2つ。勝つのはどちらだ!!』
HTML表
5話
7話