王者は誰だ 第8話   

「くっやるな!」
「朝比奈、左側に回れ!」
「承知!」

少しでも体を浮かせれば壁から頭が出てしまい、失格となってしまう長身のダールトンを、千葉と朝比奈はその小回りの利く身体能力をフルに生かし、戦っていた。 狭い通路と高さの制限は、ダールトンを窮地に追いやる。

『おおーっと、これは黒の騎士団有利か!?千葉&朝比奈 VS ダールトン!手に汗握る攻防が続いております!』

「流石テロリストだな、2対1とは卑怯な手を使う」
「ふん、武力差に物を言わせて日本を攻めたのは何処の国だっけ?」
「宣戦布告と同時に攻撃を仕掛けるような国に、卑怯などと言う権利は無い!!」

ダールトンの揺さぶりも物ともせず、千葉と朝比奈は攻撃の手を緩めることなく、ダールトンを追い詰めていった。

『さてさて、こちらは。あちゃ~、そうよね。全員が戦えるわけじゃないものね~。ギルフォード VS C.C. ですが、現在C.C.さんはギルフォード卿の手を逃れ、逃走中。うん、それが無難だと思います!頑張って逃げ切って下さい!!』

「くっ!当然だろう、騎士相手ではいくら私でも勝てないからなっ!!逃げるさ!ああ、逃げるとも!!終わったらピザを焼いてもらうからなルルーシュ!!」

ショックイメージを使えば勝てるが、こんな監視された中で使うわけにもいかないC.C.は全力で逃げ続けた。

「姫様の命令とはいえ、戦う力の無い女性を追いかけることになるとは。しかも、足が速い・・・っ!」

全力で倒して来いと言う命令に従い、ギルフォードはC.C.をひたすら追いかけ続けた。
必死で逃げるC.C.は、ルルーシュを守るのだと、本来の身体能力を超える走りを見せており、ギルフォードは距離を縮めることが出来ずにいた。

ギルフォードとダールトンがそれぞれ騎士団と交戦している中、コーネリアは一人の男と対峙していた。

「貴様、藤堂か。面白い、相手をしてやろう、掛ってくるがいい」
「コーネリアか、女だからと手加減するつもりは無い。覚悟してもらおう」
「当然だ、手加減などされては困る。負けた時に言い訳にされては敵わんからな」

『なんと!ここで優勝候補である二人の対決だ! コーネリア VS 藤堂 !これは見ごたえのある勝負になりそうです!』

「なっ!姫様!?」

その放送に、ギルフォードはC.C.を追いかけていた足を止め、今来た道を慌てて引き返した。
息も絶え絶えに逃げ続けていたC.C.は、去っていったギルフォードの背を眺めながら、その場に座り込んだ。両手を地面に付き、肩で大きく息をする姿は、限界を超えて走っていた事を物語っている。全身から汗が噴き出す。額から滴り落ちる汗を邪魔だと、鉛のように重くなった腕を持ち上げ、袖で乱暴に拭った。

「はぁはぁ、ぜぇはぁ・・・やっと、居なくなったか。はぁはぁ、今のうちに、出口を、探すぞ。はぁはぁ」

息を整える時間も惜しいと、はぁはぁと息を乱しながら壁に手をつきどうにか立ち上がると、疲労でがくがくと震える両足を前へと動かし、C.C.は通路を進んだ。

「くっ姫様!ええい、貴様ら邪魔だ!」
「行かせないよ。藤堂さんが相手なら、ここでコーネリアも終わりだね」
「貴様もここで脱落しろ!」

コーネリアの危機を知ったダールトンの顔から余裕が消えていた。
ちょこまかと動き回る二人に翻弄され、気が付いたら袋小路に追い込まれていた事も、ダールトンから冷静さを奪う原因となった。

『早い!藤堂の放った一撃を、コーネリアはぎりぎり避けた!だが、すぐさま放たれたコーネリアの蹴りを、藤堂は難なくかわす!これは勝負が見えたか!?』

コーネリアが追い詰められている。その放送に、ダールトンの顔が僅かに強張った。
その隙を見逃す二人ではない。
二人同時に、身を沈め、ダールトンの足をめがけて突進し攻撃を仕掛ける。

「ええい!うっとうしいわ!!」

ダールトンはとっさに手を伸ばすと壁を掴み、腕力に物を言わせ、体を沈めて突進してきた朝比奈の頭上を飛び越えた。

『ダールトン将軍、迷路の壁より上に頭が出ましたので失格です! 千葉&朝比奈 VS ダールトン 、勝者は千葉&朝比奈ペア!黒の騎士団側の勝利です!』

朝比奈を飛び越え、着地したダールトンの耳に無情にも失格の放送が聞こえてきた。しまった、とダールトンは顔をゆがめ、朝比奈と千葉は作戦勝ちだとほくそ笑んだ。
軍人である二人とはいえ、これだけ体格差のあるダールトンとまともに戦っても勝ち目はない。だからこそ、壁の上に顔を出したら失格というルールに目を付け、ひたすら翻弄し、足を狙い攻撃をしていたのだ。この辺りの正攻法ではない戦い方は、ゼロの指揮下に居た事で知らず身についていた。

『尚、失格した方が味方の戦闘に手を貸した場合、当然ですが、その対象者も失格です。失格した者が、生き残っている者を攻撃した場合も連帯責任になるので、ダールトン将軍は大人しく引き上げてくださいね』

成す術もなく立ちつくしたダールトンに勝者の笑みを見せた後、朝比奈と千葉は藤堂の元へ走った。

その頃のギルフォードは、迷子になっていた。

「馬鹿な!ここには間違いなく直進する通路だったはず!くっ、さっきの十字路で曲がり間違えたか!?」

そう言いながら、ギルフォードは慌てて道を引き返して行く。
ギルフォードの足音が遠ざかったその時、壁があったはずのその場所が、はらりと捲れた。壁に見えたそれは、壁と同色の布だったのだ。近くで確認すればギルフォードも布だと見破ることが出来ただろうが、遠目から見れば袋小路にしか見えなかった。まさか布で遮っているなどとは思いもせず、行き止まりだと瞬時に判断し、疑うことなく引き返したのだ。
布の向こう側に居たのは、車いすに座ったナナリーとメイドのサヨコ。
サヨコは設置していた布を、てきぱきと回収し折り畳んだ。

「流石ですサヨコさん、ギルフォード卿は全く気がつかなかったようですよ?」
「お褒め頂きありがとうございます。これでギルフォード様はコーネリア様と合流するのは難しくなったでしょう」
「そうですね、ここで合流などされたら、一気にブリタニア軍が優勢になってしまいます。お兄様を守るため、スザクさんを止める手駒は、出来るだけ残しておかないといけませんからね」
「では、ナナリー様、参りましょう」
「はい、お願いしますサヨコさん」

黒の騎士団とブリタニア軍が一般人に手を出す事は許されないが、一般人が手を出す事は禁止事項に含まれていなかった。奇策を得意とするゼロであるルルーシュの妹ナナリーが、これほど自分に有利となるルールを見逃すはずはなかった。
くすりと笑うナナリーの車いすを押し、サヨコは通路の先へと進んでいった。

『コーネリア VS 藤堂 決着がつきました。勝者藤堂っ!ここでコーネリア様は脱落となります。現在黒の騎士団優勢です!』

「姫様っ!」

その放送に、ギルフォードは、ガクリと膝をつき、その場に座り込んだ。

『早いっ!これは早い! スザク VS 千葉&朝比奈 一瞬で決着がつきました!強い、強すぎるぞ枢木スザク!ブリタニア軍側の勝利です』

千葉と朝比奈は何が起こったのか、解らなかった。
通路の角から枢木スザクが姿を現し、こちらはすぐに身構えた。殺気と狂気を秘めた暗い瞳で睨まれ、一瞬気押されたが、すぐに立ち直り、二人は間合いを測った。だが、スザクがこちらへ走ってきた所までは覚えているが、その後気が付いたら迷路から外に運び出されていた。
強い、強すぎる。意識を取り戻した千葉と朝比奈は、異常ともいえるスザクの身体能力に顔を青ざめた。

『あっ、来た来た来た~~! スザク VS 藤堂 !先ほどの綱渡りでは主催側からの注意が入り、決着はつかないままで終わっていましたが、ここで師弟対決再び!さあ、勝つのはどっちだ!』
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