王者は誰だ 第9話   

藤堂さんがスザクと戦っている。
今のうちだ、早く出口を見つけここから出なければ。
カレンは必死に出口を探していた。
千葉と朝比奈は弱くない。だが、スザクはその二人を一瞬で沈めたのだ。
今のスザクは己の欲に、本能に従って動いている。
自分を律し、軍人としてのルールで雁字搦めにされているいつものスザクより、強い。
戦ったら負ける。カレンはそう感じ、体力温存なんて甘い考えは捨て、全速力で迷路を駆け抜けていた。

「もー!出口何処なのよ!!!」




「あ、ユーフェミア様、ニーナ」

迷路の入口で立っていると、ユーフェミアとニーナが歩いてきた。

「あら?中に入らないのですか?」
「う~ん、私達に害は無いって言われても、入るの怖いよね?」

シャーリーの言葉に、ここの入口から先に進んでいない一般参加者はうんうん、と頷いた。既に入ってしまっている人たちはともかく、こんな恐ろしい内容の放送がされている、いわば戦場に入る勇気など持ち合わせてはいない。優勝は諦めている。入るなら黒の騎士団とブリタニア軍が迷路を抜けてからだ。30位までは賞品が出ると言うのだから、それを狙うと言う者が迷路の入り口に集まっているのだ。それでも50人以上はいるから、競争率はそれなりに高い。

『藤堂が隙をついてスザクを投げた!が、スザクは壁から頭を出さない!藤堂の服を瞬時に掴み空中で反転、その勢いを利用し藤堂に攻撃を仕掛ける!が、かわされたぁ!』

その上激しい師弟対決が実況され始めたのだ、余計中へ入る雰囲気ではなくなった。

「ユーフェミア様も一緒に待ちませんか?」

そのシャーリーの言葉に、ユーフェミアは躊躇うことなく中に入ろうとしていた足を止め、考えた。
スザクに「私の騎士なら勝て」と言った手前、主である自分が勝つ訳には行かなくなったユーフェミアである。
正直体力は有り余っているし、姉の敵は取りたい。
だが、その敵とスザクが戦っているのなら、手出しは出来ない。
せっかく姉が渋々ながら許してくれたのだから、もう少し遊びたかった。
だが、ニーナがずっと着いてきている以上走ることも難しいのが現状だった。ニーナが居なければと思うが、慈愛の皇女で通している自分が妙に懐いてくる彼女を置き去りにして進むわけにもいかない。

「はい、ご一緒します」

ユーフェミアは花が綻ぶような美しい笑みで答えた。




スザクと藤堂の戦いは長引いていた。
お互いに体力をかなり使っていた上に、戦い方を知り尽くしていると言ってもいい二人なのだ。最初の攻防の後、互いに攻撃を仕掛けることが出来ず、攻撃の姿勢で構えたまま動けずに居た。
よくここまで鍛えた、と密かに感動している藤堂。
流石藤堂さんだ、と密かに尊敬の念を深めるスザク。
そんな対決に、一人の男が割って入った。

「見つけたぞ藤堂!姫様の敵っ、枢木一気に攻める、ついてこい!」
「イエス・マイロード!」

鬼のような形相でやってきたギルフォードの言葉に、反射的に返事をしたスザクは、指示されるままに二人で藤堂を打倒した。

『藤堂 VS スザク&ギルフォード ブリタニア側の勝利です』

それまでの師弟による熱い戦いがギルフォードの横槍であっさりと終わってしまい、観客は白けたと言う。
脱落した後は一観客として、その熱い戦いを固唾を呑んで見つめていたコーネリアは、壇上へと上がりミレイからマイクを奪い取ると、すぐにギルフォードに戻るよう怒鳴りつけた。
普段空気を読めないスザクでも、今の戦いは空気を読んで邪魔しないで欲しかったと、運ばれていく藤堂を見ながら深く息を吐いた。




再び走り出したスザクは、カレンを探していた。
放送ではまだカレンが脱出したと言う事は言われていない。ならばまだ迷っているはずだ。自分のモノを奪おうとする敵、絶対にここで倒す。と、本能が命ずるまま走り続けていると、目の前に見知った人物が姿を現した。
道を塞ぐようにそこに居たのは、車椅子に座った僕の大切なモノの片割れ。
そして彼らに使えるメイド。

「ナナリー?」
「はい、スザクさん。どうかしましたか?」

にこやかに笑いかけてくるが、ナナリーは道を開ける気配は無い。
ナナリーは今の状態が解らないのだと判断し、車椅子を押すサヨコへ視線を向けた。

「えーと、サヨコさんすみません、通してもらえますか?」
「お断り致します」

こちらもにこやかに笑いかけてくるが、その口はあっさり否定の言葉を乗せる。

「断る?」
「はい、お断りします」

当たり前のように、再びサヨコはそう口にする。
聞き間違いではなかったようだ。
どういう事だ?スザクは目の前の二人の様子に軽く混乱した。

「スザクさん。私達は貴方の敵です」

ナナリーはふわっと柔らかい笑顔をスザクに向けながら、そう宣戦布告した。


『え?な?ええ?これは予想外の対戦カード! 一般参加者のナナリー&サヨコ VS スザク !ナナリーはご存知の通りうちの副会長ルルーシュの妹であり、その体には障害があります。そのためメイドであるサヨコさんがサポートに付いて、二人で一人扱いとなっています。 先ほど私は追加ルール上で、ブリタニア軍と黒の騎士団による一般参加者への攻撃は禁止としたため、スザクは二人を攻撃すると失格ですが、一般参加者の二人からの攻撃は可能!これはルールの穴を突いた、予想外の対決!よく気が付いたわね~』

全然気がつかなかったわ、と感心した声音でミレイは画面に映し出されている三人を見て苦笑した。気付かなかったと言えば、スザクの執念だ。今回の大会でまさかスザクが暴走するとは予想していなかった。
各関門でのスザクの姿で、ミレイは密かに冷や汗を流していた。
ルルーシュを賞品にすれば盛り上がるとは思っていたが、予想をはるかに超える異様な盛り上がり方に、何か見落としをしていると警鐘が鳴り続けていたのだ。
このスザクの様子で、ようやく自分が出した優勝賞品の危険性に気が付いた。
ならば当然ナナリーも気づく。
大切な兄を守るため、ナナリーは戦う決心をした。ならばそれに水を差すようなことはしない。ルールの変更をして一般人は攻撃不可なんて事はしない。頑張ってナナリー。カレンが勝つなら、たとえどんな命令をされてもルルーシュの傷は浅くて済むけど、スザクは駄目よ、笑えなくなるから。
ナナリーがんばって!と、声には出さず、ミレイは強く願った。




「僕の敵?」

大切な存在の片割れが言ったその言葉に、僕は暫しの間硬直した。

「でも、君は一般参加だよね?戦闘にはならないよ」
「いいえ、それは違いますよ?ミレイさんもこの戦いを許可してくれたようですし、戦闘として成立しました」

ナナリーは何も問題ありませんと、にこやかに話す。

「そうだとしてもどうして僕と君が戦う事になるのさ?」

僕が君たちと戦う事などあり得ない、あってはならないという思いと、急がなければルルーシュを取られてしまうと言う思いが鬩ぎ合う。

「スザクさんに優勝をさせたくないからです」

その言葉に、僕は思わず目を見開いた。

「でも、僕が優勝するのが一番いいんだよ?君はルルーシュが他の誰かに取られてもいいのかい?」
「その前提が間違っているんですよ?優勝者はお兄様に1回だけ願いを叶えてもらえる。ただし生徒会の許可が必要。ですから、お兄様に邪な考えを持たない限り、願う事などたかが知れています。ですが、そのルールの穴を突いてお兄様を手に入れる事も可能だと、邪な考えを持つ方は気がついてしまうのです。そしてスザクさん、貴方もその一人」

眉根を寄せ、悲しそうに話すナナリーに、僕は思わず否定の言葉を上げかけた。だが、どうにかその言葉を呑みこむ。ナナリーの言う事に間違いは無い。僕はその盲点を突くつもりだったのだから。
僕の感情を知った彼が、僕から逃げ出さないようにする為に。

「でも、ナナリー。カレンが既に先に行ってしまっている。彼女もルルーシュを狙っているんだ。急がないと」
「大丈夫です、先ほど通路でお会いして確信しました、カレンさんはお兄様を守る側の人です。誰かを守ろうとする人と、無理やり手に入れようとする人、気配が同じだと思いましたか?」
「彼女がルルーシュを、守る?」

誰から?ルルーシュとナナリーを守るのは僕であって、カレンではないのに。
僕が守るはずのナナリーに敵と言われ、カレンを味方だと言うこの状況は何だ?

「はい、カレンさんは頭のいい方です。おそらく周りの空気で、お兄様の危機を知ったのでしょう。先ほど言っていました。私が必ず優勝して、ルルーシュを守るから、と」

とても心強かったですと、嬉しそうに語るその様子に、僕は体の内からどす黒い炎が噴き出すのを感じた。
カレン、君は僕に残された、たった二つのモノでさえ、僕から奪い取るつもりか?
君たち兄妹は僕から離れるつもりなのか?許さない、君たちは僕のモノだ。
僕は思わずナナリーを睨みつけ、いつも彼女に対して絶対に使わない低い声音で話しかけた。

「カレンが、君とルルーシュを守る?それは僕の役目だ。僕が君たちを守るんだ」
「スザクさんが私達を守ってくださっている事、私もお兄様もよく解っています」
「なら何で!」

解っているならそんな言葉は出ないはずだ、と僕は声を荒げ、そう怒鳴りつけた。

「今のスザクさんは、私とお兄様にとって、危険だと思うのです」
「そんなこと!」
「では、スザクさん、優勝したらお兄様に何をお願いするのか教えてくれませんか?」

柔らかな表情を一変させ、真剣な顔で訊ねてきたナナリーの言葉に、冷水をかけられたように僕は体を硬直させた。眉根を寄せ、怒ったような表情で僕の答えをじっと待つナナリーを、僕は背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、見つめることしかできなかった。

『おおっとぉ。 ナナリ VS スザク の舌戦を見ている間に、とうとう迷路からの脱出者が現れました』

その言葉に我に返った僕は、ナナリーとサヨコが立ちふさがる道を諦め、ナナリーの視線から逃れるように走り出した。




【第十関門 ゴールを目指せ】

巨大迷路の出口はゴールから離れた場所にあり、私はひたすら走り続けた。
ナナリーと迷路内で出会ったとき、出来るだけスザクの足を止めるから優勝して欲しいと頼まれた。ナナリーも気づいていたのだ、あの内容の盲点に。何を願うのかを念の為聞いてきたナナリーに、その願いを教えると、羨ましそうに、それでもホッとしたように彼女は笑った。
安心してナナリー、ゼロは、ルルーシュは私が守ってみせる。
ゴールはまだ見えないが、あと半分という標識が目に入った時だ。

『おおっとぉ。 ナナリ VS スザク の舌戦を見ている間に、とうとう迷路からの脱出者が現れました』

ついに私が迷路を抜けた事をスザクに知られてしまった。
会長のその声にはいつもの楽しげなノリがない。もしかして抜けた事に気がついていたが、気付かない振りをしてくれていたのかもしれない。それを周りに指摘され、仕方なく流したという感じがしたのだ。皆が応援してくれている。私、負けない!
全速力で私はゴールを目指し走り続けた。




おおおおおおおおおっ!!
歓声が辺りに響き渡る。
舞台の上に居たミレイは、声高らかに宣言したのだ。

『ゴーーーーーーーーーール!』

その声が聞こえた瞬間、全身の力が抜け落ち、その場に膝をついた。

ごめん、私、守れなかった。
ごめんなさい、ゼロ。

ゴールのテープを切ったのは、スザクだった。
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