王者は誰だ 第10話   

『いやー、凄いわねスザク君。あれだけのハンデを物ともせず、一番にゴールとは。流石ユーフェミア様の騎士、と言ったところかしら?』

座り込んでいた私は、心配そうなリヴァルに促され立ち上がると、腕を引かれながら演台に上った。足が重い、体が重い、今さらここに登っても意味は無いのに
だってほら、演台の上にある白いテープは切れてしまっている。

ようやく目を覚ましたルルーシュは、拘束を解かれていたが、この状況についていけず、キョトンとした表情で辺りを伺っていた。
そんな様子を、スザクは勝者の笑みで見つめている。
クールで冷静な副会長ルルーシュがいつも見せない、年齢よりも幼く見えるその表情に、黄色い声や野太い声も混ざり、辺りはいまだに騒がしかった。
ブリタニア軍の勝利だとか、流石私の騎士です!と喜ぶブリタニア軍と、悔しがる黒の騎士団の声も混ざっている。
演台に上った私は、負けたのだと言う思いが再び押し寄せ、その場に座りこんだ。
涙が次から次へとあふれ出し、頬を滑り落ちていくのを止めることさえできない。
そんな私に、リヴァルは大丈夫か?無理はするなよ?と、カメラや人目から私を隠す様に座ると、タオルと水を差し出してくれた。
タオルを受け取ると、その柔らかな触感に顔をうずめる。
どうしよう、どうしたらいい?騎士団はここに居る。どうにかしてルルーシュとナナリーを連れて逃げだす?ああ、考えが纏らない。ルルーシュ、この状況に気がついて私達に指示を出して。
ミレイが、勝利者へのインタビューと称し、スザクや皇女たちにマイクを向けているのを、リヴァルに渡された水を口に含みながら見つめていると、ざわざわと、辺りがざわめき出した。
それは、私達が今走って来た方向からで、振り返ってみると、息も絶え絶えなC.C.がふらつきながらも演台に上って来たところだった。
そのC.C.の姿に、ルルーシュは目を見開いた。
ようやく止まっていた思考が動き出したのだろう。
病弱なカレンが汗だくで、しかも涙を流しながら座り、周りにはブリタニア軍と黒の騎士団、そしてC.C.。
みるみるルルーシュの顔が青ざめていくのが解る。
そんなルルーシュの変化など関係ないと言いたげに、ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、C.C.はふらつくその頼りない歩みで私の横を素通りし、既に切れたゴールのテープがあった場所を通り過ぎ、もう限界だと、どさりとその場に座り込んだ。 ぜえぜえと全身で呼吸をするかのように肩を上下させ、荒い息を吐くC.C.に勝ち誇った笑みを見せるスザクと、慌ててC.C.に駆け寄るルルーシュ。

「だ・・・大丈夫か?」

名前も呼べない、知り合いだと言えないこの状況で、とりあえずルルーシュはそう口にした。その目には、この状況に対する混乱よりも、C.C.の現状の方が問題だという色が見て取れる。

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・だ・・いじょ・・・みえ・・・ぜぇ・・・ぜぇ」

顔を上げることなく、荒い息の合間にそう言うC.C.にも、リヴァルはタオルと水を差し出すと、ルルーシュはそれを奪うように受け取り、ペットボトルのキャップを開けると、C.C.に差し出した。
だが、それを受け取る力もないC.C.に、ルルーシュはリヴァルに目線で指示を出し、C.C.の上半身をリヴァルが支え、ルルーシュはペットボトルを傾け口に水を流し込むと、C.C.はごくごくと喉を鳴らして水を呑んだ。
流石にミレイもまずいと思ったのか、タオルでC.C.の汗を拭き始めた。

「ぜぇ・・・はぁ・・・っ・・たぞ・・・はあ・・はあ、カレ・・・ン」

カレンを呼んだのだと判断したリヴァルは、支える役をルルーシュと交代し、呆然とその様子を見つめていたカレンを引っ張って、C.C.の傍へ連れてきた。
荒い息を吐きながら、カレンを視界に入れたC.C.は、にやり、と笑った。

「ぜぇ、ぜぇ・・・この・・・馬鹿が。・・・さいご、まで・・・あきらめ、るな。・・・はぁ、はぁ」

未だに苦しく呼吸をしながらも、不敵な態度を壊さないC.C.に、カレンは涙をこぼした。

「諦めるなって、だってスザクが、ゴールしたのよ?負けたのよ私達」
「ぜぇ、はぁ、おい、そこの、女、確認、したか?」

「え?何を?」

突然呼ばれたミレイは聞き返した。

「はぁっ、はぁっ、何のための、スタンプだ、ちゃんと、確認したのか?はぁ、はあ。ルルーシュ、水、だ」

あ、まだ確認してないわ、と、ミレイはスザクの方へ駆けよった。
心配そうに見つめるルルーシュからペットボトルを受け取ると、C.C.は煽るようにボトルを傾け、残っていた水を飲み干した。
ぷはあ、とC.C.は息を吐く。

「どういうことだ、カレン、リヴァル説明をしてくれ」
「ああ、えーとね。貴方この体育祭の賞品にされたの。しかも生徒会の許可があればどんな願いでも、貴方は一つ叶えないといけないっていう内容でね。それで、ごめんね。今まで黙ってたけど、私、黒の騎士団のエースパイロットなの。今回は色々あって、黒の騎士団の団員も、ブリタニア軍も参加する形になって・・・結果、スザクが優勝したのよ」
「凄かったんだぜ、スザク。ハンデなんか関係ないって感じで、人間とは思えない強さだったな」

私が騎士団員だとばれた事、そして黒の騎士団とブリタニア軍が参加していた事は、ルルーシュの顔色を一層悪くさせたが、スザクが褒められた事で、少し気分が浮上したらしい。
騙されてるわよ、ルルーシュ。そのうち痛い目にあうわよ、ほんとに。
少しの会話で、ある程度の内容を把握したルルーシュは、未だに息を荒くし、動けずにいるC.C.の汗をタオルで拭いていた。
そんな時だ。

『あああああああああああああ~~~~~~~~~~~っ』

ミレイの悲鳴がマイクを通して辺りに響き渡った。
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