本当と嘘と 第2話

政庁にある巨大スクリーンの前に、ナイトオブラウンズ、スリー、シックス、セブンが跪き、ナナリーは車椅子の上で深く頭を下げた状態でそこに居た。
画面の向こうには、演台に立つ皇帝と、跪いた皇族、軍関係者がずらりと整列している。いったい何が話されるのだろう。新たなエリア侵略に関してだろうか。皆、固唾を呑み皇帝が話しだすのを待っていた。

「世界は嘘をついておる。人を殺してはならない、盗むな、欺くな、姦淫するな……全ては嘘、まやかしに過ぎぬ。殺されたくない、盗まれたくない、だから正義や倫理という嘘で、弱いその身を護っておるのだ」

皇帝が演説の際に頻繁に使うこの文句は、全員暗記するほど聞かされ続けている。

「さて、気付いている者もいるかもしれないが、今回ここに呼び出された者全員の携帯端末に、一つ、機能を加えた。 これは、わしの直属の研究施設ギアス響団が開発した機能よ。この携帯を所持した時に会った知り合いのデータが、自動的に記録される。そして、その相手が本当はどう自分の事を思っているのか、それを知ることが出来るのだ。この機能に嘘偽りは効かぬ。いかにうまく嘘でその身を守ろうとも、全てがここに曝け出されるのだ。嘘のない、真実を曝け出す関係。嘘のない世界というものがどのような世界かを、お前達に体験してもらう。これは今後の実験の為のデータ集めよ。定期報告も義務付ける」

ギアス響団。その名前に、スザクは思わず眉根を寄せた。
つまりこの機能は、ギアスに関わる物。ギアス能力者が作ったか、あるいは干渉しているのか?
だが、皇帝自らが説明するほどのモノだ、僕は命令に従うのみ。
巨大スクリーンがブラックアウトすると、ジノは早速自分の携帯を開いた。

「おお、ホントだ。見ろよスザク、アーニャ」

面白いおもちゃを見つけたと言わんばかりの笑顔で、ジノは二人に振り返った。

「知ってる。ジノが迎えに来る前、スザクとみてた」
「え?そうなのか?」

その返答に、ジノはポカンと口を開いてスザクへ視線を向けてくる。
スザクはジノに頷ずく事で、知っている事に同意した。

「やはりこの前預けた時に付いた機能だったんだね」
「って、スザクひどいな。私はスザクとは仲がいいと思っていたのに」

しょんぼりとした顔で言うので、アーニャとスザクはジノの画面を覗き込んだ。


シャルル (・_・) 
アーニャ (>v・)
スザク ( 一_一)
ノネット (>v・)


「あっ」

その表示に、思わず声を上げてしまう。
いつも何かとべたべた触り、絡んでくるジノを鬱陶しいとは思っているが、そうか、その感情の結果がこれなのか。
自分の本心が相手に解る。敵対している相手ならともかく、味方や同僚にマイナスの表示を見られると言う事は、これからの関係が悪化する可能性が大きい。
互いに良い感情を向けあっていればいいが、そうではなかった時大変なことになるのは当然のとこだ。
人は大なり小なり嘘をついている、それが全て暴かれてしまうのが、嘘のない世界。
皇帝は何が目的でこんな物を作ったのだろう?

「ジノ、私より悪い」
「え?アーニャ見せてくれ」


スザク (・_・)

「絶対アーニャより私の方がスザクと仲がいいはずだ。この機能、壊れているんじゃないか?」
「合ってる。私の方が仲がいい。ジノ、ウザい」
「ええ!?酷いぞアーニャ」

二人がそんな会話をしている間、スザクは耳に携帯を当てているナナリーが音声を聞き終わるのを待っていた。

「ナナリーは音声なんだ?」

ようやく耳を離したナナリーに、スザクはにっこりと笑いながら訊ねた。

「はい。私の携帯は、皆さんと同じように表示はされないようです」

にっこりと笑いながら差し出された画面を見ると、secret と表示されていた。
プライバシーの問題もあるのだから、当然の配慮かと、スザクは頷いた。

「お父様とスザクさんの好感度は、デレデレ だそうですよ?」
「デレデレ?」

その言葉に、僕たちは全員ナナリーの方を見た。

「はい、私にはイラストは見えないので、言葉で表現されているんです。
(*´v`*)(^▽^)(>v・)(・_・)( 一_一)(`へ´)(`△´#)
←デレデレ・親密・仲良し・普通・軽蔑・嫌い・サイアク→ 
なので、お父様とスザクさんは一番好感度の高い状態だと言う事ですね」

嬉しいです。と笑う少女の顔を見ながら、僕は「当たり前だよナナリー」と、優しい声をかけながらも、ひくりと顔をひきつらせた。
これはあれだ、えーと、つまりだ。

アーニャと同じくナナリーも

シャルル (*´v`*)←これな訳だ。

ロリコンなのかやっぱり。
いや、ナナリーは娘で、アーニャは自分を守る騎士だ。
まだ若いアーニャを実の娘のように・・・ってジノも見た目はともかく若いし、僕だってまだ未成年だ。
実の子の大半より若いのだから、アーニャが騎士だからという理由は成立しない。
では何だ?どうしてアーニャは 

シャルル (*´v`*)←これなんだ?

「アーニャも(*´v`*)だったが、まさか陛下はロリ」

僕はその言葉に反応し、神速の速さでジノの口をふさいだ。
あまりの速さに、ジノとアーニャは目を見開いている。

「ジノ、不敬罪だ。思っても口にしちゃいけない。しかもここにはナナリーもいる」

至近距離で睨みつけながら言うと、ジノはこくこくと首を縦に振った。
危ない、ナナリーの耳に不穏な内容が入るところだった。
僕はジノから手を離し、自分の携帯を開いた。
内容に変化は無い。陛下のアーニャに向けている内容と、ルルーシュの内容以外は正確なのかもしれない。
いや、この二つも正しいのか?どうなんだ、解らない。
スザクの画面はどうなんだ?と好奇心に満ちた目をジノが向けてきたので、すっと画面を前に出した。

「ジノ、ちなみにこれが僕への評価だ」

シャルル (`△´#)
ロイド (・_・)
セシル (^▽^)
ジノ (^▽^)
アーニャ (>v・)

「ってスザク、陛下の評価最低じゃないか」

その内容を見たジノは再び目を見開き、何度も画面を見直し、僕と評価を交互に見つめる。

「え?スザクさん、お父様の評価サイアクなんですか?」
「仕方ないよ。僕はイレブンだからね」
「それにしたってこれは・・・」
「だったら、そうだな。ナナリーに(*´v`*)なんだろ陛下は。なら、ナナリーと仲がいい僕に嫉妬してるのかも」
「娘を持つ親の心理か」
「多分」
「そんな、お父様ったら」

ポッと頬を染め、困ったように笑うナナリーは可憐で可愛らしかったが、この反応が後々面倒事を引き起こすなど、僕もナナリーもこの時は考えていなかった。
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