本当と嘘と 第4話

午前中の仕事を終え、スザクは自室へ戻ると、椅子に座り携帯を取り出した。
そして素早く操作し、新たに加わった機能を呼びだす。
やはり画面の表示は、相手のその時の感情によって多少変動があるようだった。
先ほどまでは(・_・)だった表示が、その相手と再び会った時には(>v・)や( 一_一)に変わる事もあるからだ。とはいえ、名誉の自分はブリタニアの軍人内ではやはり嫌われているらしく、大半の表示が( 一_一)か(`へ´)だった。
そんな中で異彩を放つルルーシュとナナリーの(*´v`*)は、何度二人に会っても変わる事は無かった。
(*´v`*)か。
シャルル皇帝がナナリーとアーニャに対し(*´v`*)だったのを見た時は、だらしがなくデレデレとした顔に見えて、正直気味が悪い表示に感じていが、こうしてルルーシュとナナリーの表示が(*´v`*)だと、何故か可愛く思えるのだから不思議だな物だ。
と言っても、このルルーシュの表示に関しては、もしかしたら機械の故障による物なのかもしれない。
確認したわけではないが、ルルーシュの端末は、ヴィレッタ以外(*´v`*)表示だったと言うし、表示する際のタイムラグも、瞬時に変更される時と、10分ほどかかってから表示される時とばらつきがある。大体、どのような方法で人の感情を読み取っているかは知らないが、完璧にすべて読みこめるものではないのだと思う。ギアス響団で開発されたと言う事から、ギアス能力が関与している事は確かで、正直持ち歩きたくはなかったが、携帯に加えられた機能なので、置いて歩くわけにもいかない。
そう言えば、この情報はギアス響団へ送られているのだろうか?
だとしたら、プライバシーの侵害じゃないか?交友関係など全部知られてしまうのだから。
交友関係?
そこまで考えて、僕は慌てて立ち上がった。
そうだ、これで交友関係が全てわかるのだ。
この端末が配られて既に1週間、その間にも黒の騎士団は活動していた。
ならば、ルルーシュの端末に、騎士団関係者の名前が表示されていてもおかしくない。
いや、もしゼロとしての記憶が戻っているのであれば、必ず表示されているはず。
当然、カレンやC.C.の名前も。
幸い午後からは仕事は入っていない。僕は急いで学生服に着替え、政庁を後にした。




「どうしたんだスザク?そんなに慌てて。午後の授業はもう終わっているぞ?」

生徒会室に入ると、目的の人物がいつもの席に座って本を読んでいた。
部屋の中にはルルーシュだけで、他には誰もいなかった。

「ああ、皆学園内を歩きまわっているよ。もう一週間になると言うのに、未だあの端末の表示が気になるらしい」
「君は気にならないの?」
「ならないと言えば嘘になるが、俺のは壊れているからな。それに、こんな機械でこちら側だけ相手の気持ちを探るなんて、ずるいと思わないか?」

苦笑しながらも本から目を離すことのないルルーシュの横に座った。

「そうだよね。そう言えば、まだ君のは壊れた端末のままなんだ?」
「ああ、データ自体は取れていると言うし、量産されている物ではないから、俺はしばらくはこのままらしい」
「見せてもらってもいい?どう表示されているか気になるんだ」
「見ても面白くは無いぞ?」

そう言いながら、ルルーシュは胸ポケットからあの端末を取りだした。あの日は頑なに見せないと言う態度を取っていたのに、今日はあっさりと手渡してくれる。
その態度の違いが気になりはしたが、ここで指摘してその事を思い出されても面倒だと、僕は「有難う」とその端末に手を伸ばした。
画面はヴィレッタと同じで、オンオフとスライドのボタンがあるだけ。作りも同じだ。
オフにされているスイッチを入れると、起動画面が表示された。

「これってオフにしてていいの?」
「オフになるのは表示だけで、中の機械は動き続けているらしい」

成程と、僕は画面が表示されるのを待った。
そして表示された内容に、思わず目を見開き息を呑んだ。
既に表示上限である300人となっている事にも驚いたが、それ以上に驚かされたのは僕の表示だった。

スザク (`へ´)

その内容に、血の気が引く思いがした。
だから、リヴァル達が見ない方がいい、壊れているんだと言ったのか。
僕とルルーシュは幼馴染で、学園内では仲がいい友人で通している。
その仲の良い友人の片割れが、実は相手を嫌っていると表示されるはずがない。そう思われていたのだ。
だが、この表示に間違いは無いだろう。一時に比べたらだいぶ落ち着いてはいるが、僕は今もルルーシュは許せない。学園内で友人の振りをするのも、あくまでも監視のためで、ゼロであると解ったら、彼を殺すよう命じられているのだから。そう、ゼロだと解ればルルーシュを処刑できる。だからこそ、僕はルルーシュがゼロだという証拠を探しているんだ。
そんな僕の表示がこうなる事など当たり前、そのことを完全に失念していた。
初めてこれを手にした日にも思った事じゃないか。良い感情だけを互いに向けているなら問題は無いが、もし片方が本心を隠して接していたら、それが表示され、相手がそれを知った時どうなるのかと。
そう考えている間に、再び表示が更新される。

スザク (`△´#)

あの頃の感情がむくりと顔をのぞかせた事で、表示がさらにワンランク悪くなったのだ。その状態に、冷や汗が出る。ルルーシュは、じっと端末を睨みつけているスザクに気がついたのか、苦笑しながら話しかけてきた。

「やはり気になるか?お前の表示も壊れていると皆が騒いでいたよ。なにせ(`へ´)か(`△´#)しか表示されないからな。でもまあ、あまり気にするな。こんなに嫌っている人間と友人の振りが出来るほどお前は器用じゃないし、友人でいる理由もないだろう?」
「そうだね、それにしても凄いな君の表示は。僕とヴィレッタ先生以外の298人全員が(*´v`*)か」

僕は自分の名前を視界から消す様に、画面をスクロールさせた。
全員ブリタニア人か。機情の人間の名前もある。おそらく照会しても全員この学園内の生徒か教師だろう。

「俺の端末の計測範囲に入った人間全員が表示されたらしくてな、この前会長とシャーリーが全員の名前を確認していたよ。全員この学園の関係者だった」
「そうなんだ。本当に君の端末は意味がない状態なんだね」
「それでも身に着けていろと皇帝陛下の勅命だからな。でもまあ、壊れていてよかったとも思うよ。皆は楽しんでいるようだが、俺はこんな自分のプライバシーが曝け出されるような機械、正直いうと持ち歩きたく無いんだ。確かに相手の気持ちは気になるが、こんな機械で一方的に知っていいものではないだろう?今はまだ問題は起きていないが、この機械が原因で争いが起きる可能性は高いと思っている。もしもだ、この機械が壊れていないのに、お前の表示がそれだったら、俺はお前と友人のままではいられないだろう?寧ろ険悪な関係になる可能性の方が高い。皇帝陛下は一体何をお考えなのだろうな。俺のような一市民には理解できないよ」
「・・・僕にも、理解はできないよ」

今だに自分の本当の気持ちが、こうして相手の端末に視覚化され表示されていた衝撃が抜けきらず、僕は顔を上げる事が出来なかったので、端末をじっと見ているふりをしながら、そう答えた。

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