本当と嘘と 第5話 |
またワンランク悪くなっていたスザクに表示に、思わず溜息が洩れた。 嫌われているのは知っている。当然だ、俺はユーフェミアを、スザクの主であり、スザクが愛した俺の妹を、この悪魔の力でその心を壊し、この手でその命を奪ったのだ。 記憶を失っている事となっている俺はともかく、スザクはあの時のまま変わらないのだから、憎んでいて当然、この表示にも納得しているが、やはりこう視覚化されると、頭では解っていても辛く感じてしまう。 自分で犯した罪の結果だと言うのに、スザクに嫌われる事が辛い、よく思われていたいなんて、随分と虫のいい話だと、思わず自嘲の笑みを浮かべた。 「・・・以上となります」 「有難うサヨコ、4日間よく俺の影武者を務めてくれた。それにしてもスザクでも見破れなかったとはな。君の変装技術には何時も驚かされる」 目の前には、自分そっくりの学生服を着た人物、サヨコが今日までの報告のため立っていた。そこに鏡があると言っても信じてしまうほど自分に似ている容姿、声、所作。 昨日生徒会室にやってきたスザクにも、全く疑われなかったのだと言う。 ロロはそれが気にいらないのか、サヨコをじっと睨みつけていた。 「いい加減兄さんの変装解いてくれないかな?サヨコ」 「失礼いたしました。では、すぐに着替えてまいります」 一礼すると、サヨコはその場を離れて行った。 「そう怒るなロロ、それより今は端末を持っていないだろうな?」 「部屋に置いてきたよ。サヨコが記録されたら困るしね。僕はブリタニア側の人間だと思われているから、置き忘れていても、枢木卿は気にしないし」 「そうだな。俺のはすぐに上限まで行ったからよかったが、そうでなければサヨコに持たせることが出来ず、面倒なことになっただろうな」 偽物を用意するのは簡単だが、万一その偽物を回収された時が問題だ。リスクは出来るだけ無い方がいい。幸い、この端末は本人が持っていなくても、ちゃんと機能してくれていた。これで指紋認証や音声認証、網膜認証を必要としたり、本人が持たない限り動かないという物だった場合、蓬莱島へ向かう事がほとんど出来なくなってしまう所だった。 「もしかしたら、端末のおかげでスザクに気付かれなかった可能性はあるな。おそらくスザクが昨日来た目的は、俺の端末を見て、騎士団内の誰かと接触していないかを確認するため。監視カメラの映像でもわかるが、スザクは殆どサヨコの方を見ていない。ずっと端末に視線を落としていた。だから、俺に似た姿と俺に似た声と言うだけで、俺であると認識した。他の者もそうだが、誰かと話をした後必ず端末で相手の情報を見ている。自分の目と耳で得た情報ではなく、端末の情報に依存し始めているんじゃないか?」 「それって悪い事なの?はっきりと相手の気持ちが解るんだから、いいことじゃない?」 不思議そうに聞いてくるロロに俺は呆れてしまう。本気でそう思っているのだろう、おそらく今データを集めて回っている皆も。 「良い事だと思うのか?今は自分の知っている一部の人間だけが持っていて、互いに情報を見せ合っているから、そう思えるだけだ。スザクだって、これを見るまでまさか自分の感情が(`△´#)で表示されているなんて思っていなかっただろう。この端末は壊れているからという事で、その場は収まっているが、これがスザクの本心だと周りに知れたらどうなる?少なくても俺とスザクは、今のままではいられなくなる。何せ友人だと思っていた相手が、実は俺を嫌っている事を知ったのだからな。故障と言う都合のいい言葉がなければ、これも争いの火種になっただろう」 「別にいいじゃないか、枢木卿がどうなっても」 「問題はスザクの事だけじゃない。人は大なり小なり嘘をついて生きていると言う話だ。嫌いな相手にも波風を立てないよう、笑顔で接し、時には友人のような態度を取る事もあるだろう。嫌いな商談相手にも親切にし、仕事を円滑に進める事もあるだろう。嘘というものは悪い事だけではない、人が争いを起こさないよう生きる上でも必要なスキルだからな。だが、嘘をなくし、全てを曝け出すこの装置を全員が持つようになれば、その嘘も使えなくなる」 「いいじゃないか、嫌いなら嫌いで」 「なら例を変えよう。お前は俺の弟だ。ナナリーの代役、つまり俺が最も愛する妹の替りだ。となれば、表示されるのは(*´v`*)しかあり得ない。最悪(^▽^)の可能性もあるが、間違いなくナナリー相手なら(*´v`*)だ。俺の記憶がない間、ロロに対してもそう言う態度を取っていた。その俺の表示が(*´v`*)では無いと、皆が知ったらどう思う?お前の事は愛しているが、ナナリーほどではない事をお前もよく知っているはずだ。俺は皆の前では以前通りお前に接しているが、それが全て演技だとばれてしまう。本当は、自分をよく見せるために笑顔で接し、いい兄を演じる最低な兄だとな。そしてロロ、お前はその事に気づかず、俺を慕っているのだと。そんな人間に対し、真実を知った生徒会の皆は、さてどういう反応をすると思う?」 「・・・それは・・・」 「俺は間違いなく、彼らの信用を失い、軽蔑されるだろう。今の関係は壊れ、さらにその話は噂となって学園中に知れ渡る。俺は自分がブラコンだと言われてることぐらい知っている。だが、実際はブラコンではないと知られるわけだ。だからいいな?前にも言ってはいるが、お前の端末は誰にも見せるな。無駄な争いは避けたい」 「・・・うん、解ってる」 ルルーシュはそう言い捨てると、立ち上がり、その場を去った。 部屋に戻ったロロは、自分の端末を起動した。サヨコにはこの近辺に近寄らないよう言ってあるので、彼女の名前は表示されていない。 その事を確認すると、表示を一番上に戻し、ルルーシュの名前を見た。 ルルーシュ (>v・) 絶対に嫌われているだろうと思っていたのに、この表示を見た時の僕の喜びを兄さんは知らない。きっと兄さんはこれを見たら、お前の端末も壊れていると思うに決まっている。でも、僕のは壊れていない、これは兄さんの本心なんだ。 そう思うと、自然と顔が緩んだ。 壊れていない、壊れているもんか。 兄さんはああ言ったけど、僕はこれで兄さんの心を見れてよかった。 端末にぽたりと水滴が落ちたが、ロロは気にすることなく、じっとその表示を見つめていた。 |