本当と嘘と 第6話 |
「え?なんで?」 僕はその表示に驚き、思わず声に出して驚いてしまった。 1週間ぶりに登校できるようになったので、学園の敷地内に入ってから携帯を開いた。久しぶりに更新されたプライベート関係の表示を確認すると、予想外の表示に変わっているものがあって、スザクは確認するため急ぎ教室へ向かった。 お昼休みも間もなく終わると言うこの時間、教室に入ると見慣れた二人の姿がそこにあった。 二人は僕の姿に気がつくと、にこりと笑顔を向けてくる。 「おはようルルーシュ、リヴァル」 「おう、おはようスザク、ひさしぶり~」 「おはよう、今日は昼からは授業に出れるのか?」 「うん、今日は午後から休みなんだ」 「そうか、学校も大事だが、ちゃんと体も休めるんだぞ?」 「わかってるよ」 その時、チャイムが鳴り先生が入って来た。僕達はそれぞれの席に戻ると、先生の話に耳を傾けるが、スザクは先程の表示が気になって、授業の内容が頭に入ってこなかった。だが、二人とのいつもと変わらない会話で確信することは出来た。 やはり僕のルルーシュの表示はおかしい。 解っていた事だが、(*´v`*)であるはずがないんだ。 当たり前だ。そんな表示であるはずがないんだ。 それなのに、どうして(*´v`*)ではなくなった事を僕はこんなに気にしているのだろう? そう、先ほどの更新でルルーシュのランクが一つ落ちていたのだ。元々よく変動する表示だが、ルルーシュとナナリーはずっと変わらなかったのに。僕はその画面の表示を思い出して、思わず目を伏せた。 ルルーシュ (^▽^)●~* いや、違う。僕が気にしているのはランクが落ちた事じゃない。きっと●~*が気になるんだ。何だろう、あの●~*は。授業が終わったら本国の開発チームに電話をして聞いてみた方がいいかもしれない。今考えても仕方がないと、僕は雑念を振り払い、授業に集中することにした。 「感情の爆発、ですか?」 『そうです、それは爆弾のマークで、対象者の感情が枢木卿に関する事で感情を爆発しかけている時に表示されます』 「対処法はあるんですか?」 『これは心の問題ですので、相手と話をし、理由を探るのが一番かと』 「わかりました」 僕は電話を切ると、再び携帯を開きプライベートの表示を確認した。やはり変わらずルルーシュは(^▽^)●~*のままだ。黒の騎士団関係だろうか?でもこの一週間では特に動きもないし、僕も関わっていない。 なら何が原因だろうか? まずは話をして、そこから何かを引き出すしかないか。 何度見ても(^▽^)●~*のままの表示に、僕は嘆息し携帯を仕舞った。 「おいおい、スザク、水臭いな。何で教えてくれなかったんだよ」 「そうだよスザク君、話してくれてもよかったのに。もう、スザク君が午後から登校してきたけど、周りに人がいるから聞きたくても聞けなくて、拷問だったよー」 「ん~でも、こういう話題は、デリケートだものね~、皇帝陛下の騎士であるスザク君は下手に話せないわよねぇ」 放課後、生徒会室に入ると、ミレイ、シャーリー、リヴァルに突然囲まれ、僕はそう詰め寄られた。 「え?何の話ですか!?」 話していない?デリケート?何の話だ?笑顔で詰め寄ってくる三人の思わず後ずさりながら、辺りを見回した。いつもの席には困ったように眉根を寄せたルルーシュと、その横にはなぜかにやりと笑っているロロ。二人の前にはにこにこと笑うジノと、僕達の写真を取ろうと構えているアーニャ。 「このこのぉ~、今さら隠すなって。お前、ナナリー皇女殿下とお付き合いしてるんだろ?」 「ええっ!?」 リヴァルのその言葉に、僕は素で驚いて思わず大声を出してしまった。 本気で驚いた事が解ったのだろう、ミレイとシャーリー、リヴァルもまた、え?という驚いた顔でこちらを見返していた。 「何の話ですか!?って誰がそんな話しをしたんですか?」 「え?だってジノがそう言ってたわよ?」 ミレイがそう言いながらジノを指差すので、僕は思わずジノを睨みつけると、ジノは慌てたように立ちあがった。あの慌てよう、何かあるな。僕はカツカツと靴音を鳴らしながらジノへ近づく。 「まて、待てってスザク。この話は政庁内でもかなりされているんだぞ!?」 「政庁内でも?僕は今初めて聞いたけど」 「聞いてないのは当たり前、ただの噂だから。きっとナナリー様も知らない」 淡々と答えながら、ジノに掴みかかろうとした所を写真に写すアーニャに、僕は振り返った。 「噂?」 「そう、噂。スザクとナナリー様が相思相愛で、身分の壁に阻まれて一緒になれない。今はそこまで大きくなってる」 相思相愛?身分の壁?今まで考えた事もない事をポンポンと言われ、僕は驚き、目を見開いた。 「なんでそんな噂が!?」 「犯人はジノ」 即答したアーニャの言葉に、僕は振り返ることなく素早く腕を伸ばし、ジノの胸倉を掴んだ。突然伸ばされた腕から逃れる事が出来ず、あっさりジノは僕に捕まる。 「どういう事かな?教えてくれるよね、ジノ?」 僕はゆっくりとジノに振り返ると、ジノは笑みを強張らせた顔で、ごくりと固唾を呑んだ。 一気に部屋の温度が下がったような錯覚を感じるほどのスザクの様子に、部屋に居る者たちは、口を出す事も出来ず成り行きを見守っていた。 「わ、私は別に」 首を横にブンブンと振りながら、後ずさろうとするが、スザクの腕がそれを許さない。 スザクは腕に力を込めると、苦しいのかジノはスザクのその腕を両手で掴み、引き離そうと試みるが、スザクの腕はびくともしなかった。それどころかますます力を込めて締め上げる。これは不味いと悟ったのか、ジノは抵抗をやめた。 「ジノ、余計なこと話した」 「へぇ、何を話したのか教えてくれるかな?」 にっこりと笑いながらスザクはジノに話しかける。 「スザク、怖いぞ。目が笑ってない!」 完全にスザクに気押された様子のジノは、青ざめた顔でそう訴えるが、スザクはにこにことした笑みを崩さずに、ジノの胸倉を掴んだ腕に力を込めた。 「ジノ、端末の表示を話した。スザクと、ナナリー様の」 「表示?」 その言葉に、僕はアーニャへ振り返ると「そう、表示」とアーニャはこくりと頷いた。 「スザクもナナリー様も、お互いの表示が(*´v`*)だと、ジノが話した」 「・・・そうだね、それがどうして付き合っている事に?」 それで付き合っているなら、ミレイとリヴァルも付き合っている事になってしまう。ミレイ、リヴァル、シャーリーはお互いに(*´v`*)なのだから。 「ジノが、あちこちで話してた」 「・・・ジノ」 スッと目を細めて、ジノの目を見ると視線を逸らされた。心当たりがあると言う事か。 僕は再びグイッと腕に力を込めると、ジノは慌ててこちらに視線を向けた。 「まてって、スザク。本国に問い合わせたら、スザクが(*´v`*)をつけているのはナナリー様だけだし、ナナリー様が(*´v`*)をつけているのはスザクだけだから、可能性は大きいと思うじゃないか」 「へぇ、君はわざわざ本国に問い合わせを?そして人の気持ちを勝手に覗き見、暴きだして、その上言いふらして歩いたと?何を考えてるんだ。大体、僕にとってナナリーは昔から妹のような存在だ。だから(*´v`*)でも、おかしく無い」 「昔からって、そんなに前から知り合いなのかスザクは」 「エリア11が日本だった頃からのね。僕の父はこの国の首相だった。ブリタニアの皇族と関わりがあってもおかしくないだろう」 「そうなのか?」 「実際ナナリーが戦前、日本に来ていた時に滞在した場所は枢木の本家、つまり僕の実家だ。年齢も近いからと、毎日のように一緒に遊んでいた」 彼女が住んでいた場所が土蔵で、主に遊んでいたのは彼女の兄とだが、そこは話す必要はない。 「聞いてないぞそれ!」 「初耳」 「言ってないからね。そういう経緯があるから、皇女殿下相手に、敬称を付けずに名前を呼ぶ事も許されているんだよ」 「スザクにとってナナリー様は妹、ナナリー様にとってスザクは兄?なら悲恋じゃない。それは兄妹」 アーニャは心なしかつまらないと言いたげに、そう呟いた。 ただの噂だって知っていても、やはり女性は悲恋という単語や物語に弱いのだろうか。 「そうだよ、悲恋じゃない」 そう僕が断言すると、話を聞いていた生徒会メンバーは、残念と言いたげに苦笑していた。 「な~んだ。てっきり本当の話だと思ったぜ」 「うんうん、だって凄く真剣に話すんだもん。私信じちゃったよ~」 「でも、これってまずいんじゃないの?何せ皇族相手のスキャンダルよ?しかもラウンズのスリー自らばら撒いた噂だもの。私達のように信じた人間は多いんじゃないの?」 そのミレイの言葉に、ジノはざあっという音が聞こえそうなほど、顔を真っ青にしていた。 「で、でも、ナナリー様がスザクを兄と思っているのは間違いだと思うぞ」 「え?」 どもりながらもそう口にするジノに、僕は再び視線を向けた。 「ジノ、あの時の事も話して歩いた」 「あの時?」 「陛下がスザクに嫉妬。ナナリー様赤くなってた」 「だから?」 「だからじゃないだろう、お互い(*´v`*)で、その上あのナナリー様の反応だ。可能性はあるだろう?」 そう言ってくるジノに、僕は殴りたい衝動を抑える限界を感じていた。 その僕に気が付いたのだろうか、本来ならこの手の話には一切口を出さないはずの人物が、僕達の会話に割って入った。 「例えそうだとしても、なぜジノがその事を話して歩いた?二人の嘘偽りない心が見えたから?例え見えたとしても、話して歩いていい内容では無いだろう」 「でも、ルルーシュ先輩。二人が思いあっているなら、周りから後押しをする事も」 「余計なお世話という言葉を知らないのか、ヴァインベルグ卿。それとも貴族というのは皆そうなのか?二人の事は二人に任せて、そっと見守るべきだったんだ。こんな騒ぎになった時点で、陛下の耳に届いている可能性は高い。それでなくともナナリー皇女殿下は皇位継承権も低く、そのお体に問題を抱えておられる。それを理由に総督の地位を別の皇族へと言う声だって上がっている事を、知らないとは言わせない。そこに、ラウンズとの悲恋か?しかも相手は名誉だ。これは格好の材料になる。スザクに対しても同じだ。ユーフェミア皇女殿下に続き今度はナナリー皇女殿下だと、口にするのも腹立たしいほど下世話な噂が流れている事を知らないのか?皇帝の騎士でありながら皇女をまた誘惑していると、陰口をたたかれている事を知らないのか、ジノ・ヴァインベルグ。解っているのか、スザクは名誉だと言う事を。お前のような貴族ではない、ブリタニア人でもない名誉だと言う事を。スザクがラウンズだと言う事を疎ましく思う者は多い。お前と違い、何かあるたびスザクは非難の目にさらされる。お前はスザクをラウンズの地位から引きずりおろしたいと、そう考えているのか!」 いつもは冷静沈着なイメージが強いルルーシュが、怒りをあらわに話すその言葉に、その場に居る全員が、息を呑む。貴族でもない一般市民のはずのルルーシュからは、思わずひれ伏したくなるほどの圧倒的な力が流れ出ているようだった。 冷たく、鋭い眼差しと、凛としたその姿。そして、王者然としたその声音。 静かな怒りを纏っているルルーシュに、今話しかけられる者などいない。ただ1人を除いて。その唯一は、苦笑しながら、ルルーシュの傍へ近づいた。 「心配してくれて有難う、ルルーシュ。大丈夫、どうにかなるよ」 「どうにかって、お前」 心配そうに眉尻をさげ、こちらを覗うルルーシュに、思わず笑みがこぼれてしまう。 それを、楽観的に見ていると捉えたルルーシュは、僅かに眉を吊り上げた。 「・・・笑い事じゃないんだぞ?」 「そうだね、笑い事じゃない。困ったな、どんな話が陛下の耳に届くのかな」 それでも、笑いながらそう言う僕に、ルルーシュは呆れたように溜息を吐いた。 なるほど、僕に対する事で爆発しそうな感情というのはこれの事か。 僕自身に対する物かと思っていたが、僕の周りで起きている事に対する物だったのか。ランクが下がったのは、ナナリーが絡んでいるからか、あるいは噂だと思ってはいても、真実味のあるジノの話に、僕の評価が普通に落ちただけなのかな。まあ、それは後で表示を確認してみればわかる。 「でも、先輩。名誉がラウンズになるのは凄い事で、他の名誉から見れば英雄みたいなものでしょう?だって、ラウンズは今までブリタニア人からしか選ばれなかったんですから。それに力が認められたからこそのラウンズ、名誉だからと周りがスザクをそんな悪く言うとは思えませんよ」 僕と話した事でルルーシュの気配が和らぐと、ジノに向かっていた刺すような気配が解け、ジノは硬直から立ち直るとすぐにそう口にした。 「悪いけどジノ。ルルーシュの言う通りだと思うわ。ずいぶん昔の話になるけど、閃光のマリアンヌと呼ばれたマリアンヌ皇妃は知ってるわよね?」 ミレイが、いつもは見せない真剣な表情で、ジノを見つめながら話しだした。 ジノもルルーシュからミレイへと視線を移し、真剣に耳を傾ける。 「当然知ってますよ。元ナイトオブラウンズ・ナイトオブシックスでありながら、皇妃となった御方です。でもマリアンヌ様がどうしたんです?」 「マリアンヌ様は庶民の出だった事も、もちろん知ってるわよね。そのマリアンヌ様でさえ、庶民出と言うだけでラウンズ時代は酷い差別と中傷を周りから受けていた事はしってた?」 「・・・いえ」 初めて聞くのだろうその話に、ジノはあからさまに不愉快そうな顔をし、眉根を寄せた。 「でしょうね。皆が皆、ジノのように考えてくれればいいけど、ジノの考えがどちらかと言えば特殊なの。同じブリタニア人同士でさえ、身分違いだと非難されるのよ。陛下がマリアンヌ様を皇妃として迎えた時なんて、本当に酷い物だったわ。だから皇帝陛下の実子であるナナリー様でさえ、下賤な者の血が流れていると陰口や嫌がらせの対象とされていたの。スザクはブリタニア人ではなく名誉なのよ、だからスザクの受けている差別はマリアンヌ様の比ではないの」 同意するように頷くルルーシュとアーニャ、困ったように笑うスザクを見て、ジノはようやく自分の軽率さをが引き起こすであろう事態に気が付き、その顔を青く染めた。 |