本当と嘘と 第12話

「ルルーシュは、何か勘違いをしておるのだ」
「・・・勘違いではないぞナナリー。間違い無くシャルルは枢木スザクに命じていたからな。ルルーシュが1年前の記憶を取り戻したら、ナナリーを殺せ、と」

皇帝の言葉を遮るように、女性の声が聞こえた。見ると、黒の騎士団の衣装に身を包んだC.C.とカレンが、教室の前の扉からカツカツとブーツの音を響かせながら入って来ていた。
今、この何も変哲もない学園の教室には、神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニア。 エリア11総督ナナリー・ヴィ・ブリタニア。そしてブリタニアと敵対するテロリスト黒の騎士団幹部、ゼロの親衛隊隊長紅月カレン、そして尊大な態度で笑う緑髪の美少女。そんな彼らを口元に笑みを浮かべながら受け入れているのは、アッシュフォード学園副会長ルルーシュ・ランペルージ。この異様な光景に、リヴァルたちは思わず息を呑んだ。

「C.C.さんですか?」

咲世子の腕に抱かれながら、足音のした方へナナリーは顔を向けた。

「良く解ったな、流石だナナリー。私の言葉が信じられないのであれば、お前の父親の手に触れて確認してみるか?なにせお前は、その目が見えない代わりに、相手の手に触れながら話をすれば、その話が嘘か本当か、見分ける事が出来るのだからな」

皇帝ににやりと笑いかけながら、C.C.はナナリーの傍に行くと、その手を取った。

「私は嘘など付いていないから、お前に手を握られて話してもなんとも思わないが、さて。シャルル、ナナリーの手に触れながら同じセリフを口に出来るかな?」
「・・・」
「お父様・・・」

返事をしない皇帝に、無言は肯定だと悟ったナナリーはその顔を曇らせた。

「なあシャルル。なぜお前は嘘をついているんだ?ルルーシュが全てを偽り、偽物の人生を送るのは仕方がない。そうしなければ殺されてしまうからな。だがシャルル、お前は違うだろう?」

そう言いながら、C.C.は断ることなくルルーシュの胸ポケットにするりと手を入れ、あの端末を取りだした。

「こんなおもちゃまで作って何をしたかったんだか。嘘の無い世界か?私もかつてそれに夢を見たが、もう醒めたよ。そんなもの地獄でしかないと気が付いたさ。でも、お前はまだその道を進むのだろう?ならばルルーシュのように真実を語ったらどうだ?まずは手本を見せてみろ。この私のように、真実だけを語ってみたらどうだ?・・・まあ、お前には無理か」
「C.C.今は皇帝の事はいい。ナナリーの安全が最優先だ」
「わかっているさ。その為にカレンと共に来たのだからな。咲世子、ナナリーは私が運ぶ。カレンとロロと共に私とルルーシュを守れ。ひとまず蓬莱島へ向かうぞ」

C.C.は手にしていた端末を自分のポケットへと仕舞うと、すっと手を伸ばし、ナナリーの体を咲世子から受け取り、そう言った。

「ならん、ならんぞC.C.。ルルーシュとナナリーは儂の元へ戻す」
「何故だ?今さら父親らしくしたいとでもいう気か?笑わせてくれる。ルルーシュ」
「ああ。ロロ、カレンと咲世子のサポートを」
「うん、任せて兄さん」
「カレン、咲世子」
「まかせて!」
「お任せ下さい」

ルルーシュは三人に声をかけると、皇帝に視線を向けることもなく、教室の前方のドアへと足を向けた。その後に、ナナリーを抱えたC.C.が続き皇帝とスザク、そして皇帝の従者を警戒しながら、ロロと咲世子、カレンも動いた。

「ルルーシュ、ここから逃げられると思っているのか」

スザクのその声に、ルルーシュは足を止め、視線をスザクへと向けた。

「思っているさ。今ここにはカレンと咲世子、ロロ。そしてC.C.が居る。いざとなれば俺も動く。戦力としては十分すぎるほどだ。スザク、お前はそこから動くなよ。我々の邪魔をするというのであれば、此方もそれ相応の対応をしなければならない」

それはつまり、この場で皇帝の首を取るということ。ナナリーの前でそれはしたくないと言いたげなルルーシュの言葉に、スザクは動くことが出来ず、忌々しげにルルーシュを睨みつけていた。ルルーシュはそんな視線など何でもないといいたげに、口角を上げると、再び歩き出した。

「待てと言っておる。ルルーシュ、お前もナナリーも黒の騎士団へ行くことは許さぬ」

今まで無視されていたことに腹を立てたのだろうか、不機嫌そうに、それでも威厳たっぷりな声音で、皇帝は再びそう口にした。
その姿に、今度はC.C.が歩みを止め、皇帝を冷たい眼差しで見つめた。

「・・・なあシャルル。お前どうしたんだ?突然お前がエリア11に来るという情報を得て慌てて来てみれば、ルルーシュとナナリーを迎えに来ただと?ルルーシュの記憶を作り替えてこの箱庭に閉じ込め、ナナリーをルルーシュへの牽制のため総督にしたのはお前だ。それを全部無駄にする行動をとった理由は何だ?」
「決まっておる、ルルーシュとナナリーを守るためよ」
「守るだと?・・・一体何からルルーシュとナナリーを守るつもりだ、シャルル」
「ルルーシュとナナリーに纏わり付いている害虫からに決まっておる」
「は?」

その言葉に、C.C.は思わず素で驚の声を上げてしまった。
ルルーシュは眉根を寄せ、カレン、咲世子、ロロは何を言っているのだと、皇帝を見据えていた。

「C.C.よ、ルルーシュの端末は確認をしたか?」
「・・・いや。ルルーシュ、ナナリーを頼む」
「俺の端末に何があるというんだ」

文句を言いながらも、最愛の妹を久々にその腕に抱きかかえることができると、何時にない素早い動きでルルーシュはナナリーをC.C.から受け取った。「お兄さま!」と、嬉しそうにナナリーはルルーシュの首へと腕を回して抱きつき、ルルーシュも満面の笑みで「ナナリー」と呼びながら抱きしめた。二人のいる場所だけキラキラとした空気が漂っており、ナナリーのことを忘れてしまっているリヴァルとシャーリーは、完全に二人の関係を勘違いしているようだった。
そんな様子を横目に見ながら、C.C.はポケットに仕舞っていたルルーシュの端末を操作して、目を見開いた。

「なんだこれは」

ルルーシュとしては既に見慣れたスザクとヴィレッタ以外好感度MAXの表示。その様子に、C.C.の腕がプルプルと震えていた。

「C.C.よ、ナナリーも同じ状態なのだ」
「なんだと?」
「まて、ナナリーも同じだと?」

その言葉にルルーシュが反応した。

「ナナリーはお前とは違い、300人全員がその表示よ。しかも10人以外全員男だ」
「な・・・」

その言葉に、ルルーシュの顔から血の気が引いた。

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