本当と嘘と 第13話

内容が内容だったので、場所を変えようという話になり、全員がクラブハウスへ移動した。ルルーシュとナナリーを挟む形でC.C.とカレンが座り、その後ろにロロが控えた。皇帝の後ろにはスザク、ヴィレッタ、ヴァルトシュタインが控えている。他の者は全員クラブハウスの外へ追い出した。
咲世子が全員に紅茶を配っている間、1年間離れ離れになっていた兄妹は二人だけの世界に浸っていた。


ナナリーの端末のうち290人が男で全員(*´v`*)だと!?それはつまり全員ナナリーを狙っていということ!スザクが傍にいるとはいえ、そんな危険な場所に、この可憐でか弱いナナリーが居たというのか!
何ということだ、ナナリーは安全だと思っていたのに、まさか政庁が薄汚いオオカミどもの巣窟だったとは!

「すまないナナリー!そんな状況だと知らずにお前を一人にしてしまって。知っていたらすぐにでも迎えに行ったものを」

愚かな兄を許してくれと、悲壮感を漂わせてナナリーを強く抱きしめた。

「お兄様がそんな所に居たなんて・・・ご無事でよかった」

お兄様の端末も私と同じということは、私が側に居ない間、お兄様の周りに汚い虫が湧いていたということ。しかも24時間監視されていたなんて、私がお側にいればきっと気づくことが出来たのに!
ナナリーもまた、その腕に力を込め、ルルーシュに抱きついた。


まあ、ずっとこんな調子だ。ロロが冷たい視線でナナリーを見ているが、それは後でどうにでもなるさと、咲世子の入れた紅茶を一口飲んでから、C.C.は話を切り出した。

「つまり、ナナリーとルルーシュが不特定多数の男女に狙われていることに、今更気がついたわけか」

おそらくこの二人は、自分の身が危険だなんてかけらも考えてていなかっただろうが、大切な相手が対象となれば、それが危険な状況だと気がつくのか。互いの無事に安堵し、抱きあう二人を横目に、C.C.は不敵な笑みで皇帝を見据えた。

「今更だと?」
「今更だ。ルルーシュとナナリーは幼い頃から可愛いかったからな、良からぬことを考える人間は後を絶たない。だが、ナナリーはルルーシュがそれこそ命がけで守り続けていたし、暗殺を警戒していたから、自衛もしていた。だが、その状況を壊したのはお前だろうシャルル。ルルーシュからナナリーを引き離し、記憶を奪ったことで、ルルーシュの警戒心が薄れたのさ。だからこんな表示になるんだ」

ルルーシュの端末をテーブルに置きながら、C.C.は呆れたようにそういった。
近づきがたい空気を醸し出していたルルーシュが、記憶を無くしたことで近づきやすくなったのだ。それを考えれば、この程度の数字想定の範囲内だ。ナナリーは素直で可愛いし、ルルーシュはツンデレ美人だし、モテないほうがおかしいだろうに。

「で、悪い虫が集っている事に、この端末を見たことで気づいたから連れ戻したいと?馬鹿かお前。そんなに二人が大事なら、死んでこいと人質に差し出したり、息子の記憶を書き換えてブリタニアの軍師として戦場に送り込まないだろうし、今は24時間の監視だと?知ってるかシャルル。もうバベルタワーで死んでしまったが、お前の部下だった機密情報局のバカどもは、餌の役目は終わったと、ルルーシュに銃を向けていたんだぞ?私がルルーシュの記憶を戻したから生き残れたが、もし戻せなかったらあの場で死んでたからな?それだけじゃない。あからさまに死んで来いとエリア11に二人を送ったから、開戦前にどれだけの暗殺者が二人を狙ったと思っている。私が秘密裏に二人を守ってなかったら本当に死んでたぞ。今だってルルーシュの記憶が戻ったら、偽の弟にルルーシュを、スザクにナナリーを殺すよう命じているだろう。どう考えても二人を殺したいようにしか見えないな」

ロロからの報告で、ルルーシュの監視映像、特に風呂やトイレ、寝室分が機密情報局の男どもにどう使われていたのかも知っているし、バベルタワーのあの男も、ルルーシュの手足でも撃って身動きを取れなくした後、どこぞに監禁するつもりだったなんて、流石にこの場では口にできないが、あとでしっかりシャルルの耳に入れてやろう。

「ルルーシュが記憶を回復したなどと、周りに気取らせるわけがなかろう。ならば二人を害するものなど居ない。枢木はルルーシュの監視をしている以上、ルルーシュに害がある者はあれば排除するだろう。ナナリーにしても同じこと」
「馬鹿かお前。お前がそんな発言をするから、ルルーシュの命をお前の部下は軽く扱うんだ。ルルーシュに力がなかったら、何回殺されていると思ってる。私はルルーシュを守るために3回死んだんだぞ。この短期間に3回もな!それに空気の読めないこの男に、お前の言外の願いを理解して二人を守れとか、そんなこと本気で考えてたのか?ルルーシュとナナリーをマリアンヌのように殺されたくないから手放したと私に言ったが、お前はアイツ以上に二人の命を危険に晒しているんだ」
「何を言っておる、今もこうして生きているということは、儂の判断が正しかったということだろう」
「本当に馬鹿だなお前。ルルーシュが優秀だから生き残れたんだよ。まったく、お前の判断は間違いだらけだ。それで?こんな端末で、周りの人間の本心・・・つまり嘘のない世界を擬似体験してみてどうだった?お前の願いどおりの結果をもたらしたのか?」
「・・・」
「お前はそれでいいかもしれないが、ルルーシュとナナリーに良からぬことを考えている人間と、二人の思考がつながったら・・・二人は耐えられるのか?もしかしたら、二人に自分の心が伝わっているとわかって、下卑た妄想をわざとする輩も居るかもしれない。知りたくないものを、見たくはないものを強制的に知らされるわけだ。私はそんな薄汚いものを見たくはないし、二人には見せたくはないな」

皇帝はC.C.の発言を難しい顔で黙って聞いていた。ルルーシュはナナリーが居るので、皇帝を口汚く罵り、怒鳴りつけたいのを我慢し、C.C.が話しているのを黙って聞いているだけだった。
一方的にC.C.が皇帝に言葉を投げていたその流れを変えたのは、離れたくないと言いたげなルルーシュの腕に抱れたまま、二人の会話を聞いていたナナリーだった。

「お父様、嘘のない世界、それは間違っていると思うのです」
「っ!」
「・・・!」

リフレインを打つ寸前まで追い詰められた、ゼロを否定する言葉を思い出した、ルルーシュは息を呑み、ナナリーに自分の長年の夢を否定されたことで、皇帝は絶句した。

「自分の意志とは関係なく、心のうちに隠した真実を全てを知られてしまう事の恐ろしさを、私は知ることが出来ました。スザクさんは言っていました、嘘のない世界では生きていけないと。私も今はそう思っています。以前、自分の意志とは関係なく人の心を読んでしまう方とお会いしたことが有りますが、その方はまさに嘘のない世界で生きていました。その結果、その方の心は壊れてしまったのです。他人の心の真実を全て知るということは、それほど辛い物なのです。嘘というものは、相手を騙すだけではなく、守るために吐くことも有ります。嘘というものは、悪いことだけではないのです。お父様がどのようなお考えでこのような研究をされているのかはわかりませんが、人の心の中を暴くこの研究はこれ以上進めてはいけないものです」

総督として一人で立ったことが、ナナリーを自立させたのだろうか。いつもは兄の影に隠れていたナナリーが、凛とした声音で、ハッキリと自分の意志を皇帝へ話したことで、ルルーシュは感動に打ち震えていた。
ナナリー、立派になってと、その瞳には感動しすぎて涙まで浮かべている。
反対に、皇帝はナナリーの言葉に、目を見開き、完全に硬直していた。

「ナナリー、総督で居るということは、シャルルのこの考えに同意したのと同じ事。それを否定したいのであれば黒の騎士団に来い。ルルーシュもカレンも咲世子も私も、そしてお前の新しい兄であるロロもシャルルの考えを否定するため、黒の騎士団に身をおいている。我々はお前を歓迎するぞ?」

これは好機と、C.C.は感動でナナリーを見つめているだけのルルーシュは放置して、ナナリーを黒の騎士団へ来るよう誘いを掛けた。

「黒の騎士団にですか?本当ですかお兄さま」
「・・・ああ。俺は黒の騎士団にいる。総督の地位を捨て、俺と一緒に来てくれないか、ナナリー」
「お兄様が居る場所が、私のいる場所です。それに、嘘のない世界などという地獄を実現させないためならば、尚更私はお兄様の元へ行きます」
「ナナリー!」
「お兄さま!」

自分たちの世界に入り、ひしっと抱き合う兄妹はそのまま放置して、C.C.は勝ち誇った笑みで皇帝を見据えた。ルルーシュにとっての最大の弱点であるナナリーはこちら側に落ちた。

「という訳だ。ナナリーは貰っていく」
「・・・待てい。嘘のない世界とは、お前たちが思うような世界ではないわ」
「そう思っているのはお前たちだけだろう?ナナリーに言われて初めて気がついたよ。マオは嘘のない世界に生きていたのか。嘘のない世界が実現したら、皆ああなってしまうのだろうな。それは、恐ろしい世界だ」

C.C.はスッと席を立つと、ルルーシュへ視線を向けた。ルルーシュはその視線を受けて頷くと、咲世子にナナリーを任せ、立ち上がった。そしてシスコンモードからゼロモードへとその空気を変え、皇帝へ視線を向けた。

「この端末はお返しする。争いの火種としても、情報を得るためにも使えるこの機能は、兵器としては非常に優秀だ。だが、このような諸刃の剣は私に必要はない。悪いが我々はここで失礼させてもらおう・・・スザク、お前はどうする?」
「え?」

突然名前を呼ばれたことで、スザクは思わず声を上げ、きょとんとした表情でルルーシュを見た。その様子に、ルルーシュは苦笑した。

「お前は内部からの改革を考えているようだが、国のトップが目指しているのは、マオのような人間になるための、嘘のない世界を生み出すことのようだ。お前はこのままブリタニアに居るつもりか?それとも、俺とナナリーと共にくるか?」

すっと手を差し出すルルーシュを、スザクはじっと見つめた。
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