夜の隣人 第15話

全員分のコーヒーを持ってきた扇と玉城も、当たり前のよう席に腰を下ろした。
何時から僕は、彼らの仲間扱いされたんだろう?
彼らの行動が妙に腹立たしく、僕は一度落ち着くため入れ直された熱いコーヒーを口いに含む。
今回は普通のコーヒーだ。
僕がほとんどパスタに口を付けていない事が気になるのか、扇は皿をちらりと見てから「お口に合いませんでしたか?」と、眉尻を下げて聞いてきたので「注文と違う物が来たのは別に構わないのですが、せめて味見はした方がいいと思いますよ?」と、嫌味をたっぷり込めた爽やかな笑顔で返すと「え?」と驚いたような声を上げ、失礼しますとその皿を持ってキッチンへ戻った。
自分で書いた注文を確認したらしく「あっ!」と、驚いたような声を出したので、玉城が「なんだなんだ?」と、再び席を立ち扇の元へ行った。
暫くして「扇!くそ不味いぞこれ。生じゃねーか」という大きな声が響いてきた。
残った4人は静かにコーヒーを飲む僕を驚きの目で見つめてくる。

「おそらく、ですが。盗聴していますね?僕と同僚の会話がそこから聞こえたため、あなた達は会話の内容を知ることが出来た。その耳に付いているの、受信機ですね?心ここにあらずな状態で作られた料理はあの状態だし、コーヒーも酷かった。あなた達は調査に来た僕の言動を盗み聞き、僕の行動にさえ口を出している。これが処罰対象となる事は、あの雑誌を読まれているなら解っていますね?」

静かにカップをソーサーに戻した僕が、にっこり笑いながらそう言うと、何を言っている?と言いたげな視線で4人はこちらを見た。扇と玉城もこちらに戻って来たが、二人も僕のいう意味が解らないような顔をしている。
おかしいな、雑誌の最初のページで必ずされる警告だ。
目に入らないはずがない。
僕は笑顔を消し、眉を寄せた。

「毎月、読んでいるなら知っているはずですよね?」
「確かに教団の人間の行動の妨げをしてはいけないと書かれて入るが、俺たちは協力しようとしているんだ。邪魔なんてしていないだろう」

扇は心外だと言いたげに、僕にそう言うと、周りの仲間に視線を向けた。
そうだそうだと周りはそれに同意する。

「そうだぜ、せっかく俺たちが手伝ってやるって言ってるのに、何だその態度は」

手伝ってやるんだからありがたく思え。そう上から目線で怒鳴りつけてくる姿に、僕は呆れてしまう。だが、他の者たちはこれもまた当然だと言いたげに頷いているので、何を言っても無駄だと判断するしかない。今ここで話されている内容も、もちろん録音中。
あとで組織にも提出されるが、警察の手にも渡る。
彼らはそちらに任せる方がいいだろう。
この国が友好国で、日本人の移民を受け入れているとはいえ、問題を起こせば強制送還も可能だ。日本人は礼儀正しいと世界が認識してくれていると言うのに、彼らがいれば評価が落ち、日本人を受け入れてくれる国が減る。そうならないためにも、是非強制送還して再教育プログラムを受けてもらいたいところだ。
その前に牢屋か?どちらにせよここから消えればそれでいい。

「いいですか、盗聴は犯罪です。しかも教団内部の、通信機を通した会話の傍受。それだけでも刑務所送りになりますよ」

その言葉に、全員が顔色を悪くした。何で気付かれたんだ、完璧だったのにと、玉城が呟いたが、ここは無視する。

「既に今回の件は教団の手に渡り、僕の担当となりました。もし対象が魔物であれば、いえ、吸血鬼であればこの町を1日で滅ぼすほどの力があります。それだけの者を相手にするという事を理解して下さい。吸血鬼は、闇の眷族の中でも上位種。40年前に現れたケルベロスよりも上だとされています。少しの油断で、即殺されてしまう。そんな相手ですから、僕は周りに気を使う余裕はありません。・・・協力すると言う事は、標的となると言う事。つまり、訓練を受けていない貴方達が、不用意な行動を取れば、こちらの計画が崩れて僕が危険に晒される事は当然ですが、貴方達は無駄死にすることになる。・・・その覚悟はありますか?」

僕のその言葉に、予定と違うと言いたげな表情で彼らは顔色を無くした。
成程、僕が来た時点で自分たちは守ってもらえる、安全だと思っていたのだろう。
映画や小説ではないのだ。
自分たちを主人公とし、何も力の無い一般人が様々な知恵を出し合い、力のある者の協力を得て、悪を倒す物語でも考えていたのか?
自分たちが危機に陥っている時に、都合良く助けに来るサポートキャラ。
それを僕に求めた。
冗談じゃない。
彼らは良くいるヤラレ役にしかならないのに。
ここ最近の被害者に多いタイプだ。
言葉を無くした彼らを一瞥してから、僕は席を立った。

「きつい言い方をしてしまいましたね。協力の申し出、有難うございます。ですが、ここから先は僕達に任せてください。・・・この異国の地でせっかく会えた、僕と同じ日本人である貴方達を危険にさらしたくはありません」

にこりと笑顔でそう言うと、彼らは渋々と言う顔で頷いた。その様子に、僕も頷き「では任務に戻りますので、失礼します」と店を後にした。
彼らの逮捕がどの時期になるかは、ロイド達の報告書と魔女狩り特例の絡みがあるので今のところは解らないが、最長で1週間。
その間彼らに近づかなければいい。
業者が来るまであと30分。ここから屋敷まで歩いて30分。
少し急いで行けば、コンビニに寄っても間に合うだろう。
彼らが何時に起きるかは解らないが、お昼は買っておいた方がいい。
僕は歩くペースを上げ、目的の場所へ向かった。
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