夜の隣人 第16話

裏口から屋敷へ入ると消したはずの明りがついているのが見えて、もしかして誰かが入り込んだのかと、僕は慌ててエントランスへ向かった。
だが、玄関の扉を塞いでいるランスロットが動かされた形跡は無く、ふと視線を階段に向けると、階段の一番上にC.C.が座っていて、何やら端末を操作していた。
気配と足音を消していたはずなのに、C.C.は僕が来た事に気が付き、一度こちらをちらりと見た後、再び端末に視線を落とした。

「随分早いね」

僕は階段を上り、彼女の傍へ近づいた。彼女は近づいた僕を特に気にする様子も、端末から目を逸らすことなく「こんな状況で眠れるほど図太い神経はしていない」と、ぶっきらぼうに答えた。
此処に居るのは彼女だけでL.L.は居ない。
それはつまりL.L.の神経が図太いと言う事だろうか?

「L.L.には薬を盛った。あれは私以上に太陽の影響を受けるからな」

そう言うと、プログラム言語だろうか?文字が画面いっぱいに表示されているその端末の操作をやめ、スッと服の袖をまくり、火傷をした腕をこちらに向けた。
透明のシートが張られたその場所には、今は上から包帯が巻かれている。だが、その下には痛々しいまでに焼けただれ、水ぶくれができた火傷があり、その傷跡を思い出した僕は思わず眉を寄せた。
透き通るようなこの白い肌に不似合いな醜い赤い色。
仕方のない事だったとはいえ、二人とも傷跡が残らなければいいのだが。
彼女の座っている階段には、大きめの保冷剤が1つ置かれており、今も時折包帯の上から冷やしているようだった。

「私はこの表面的な火傷だけで済むのだが、L.L.の場合、皮膚を通したさらに下にまで影響を受け、血液も僅かだが汚染される。・・・そう心配そうな顔をするな。言っただろう?私達は慣れていると。L.L.は汚染された血液が回ったせいで、神経が痛み出したから薬で無理やり眠らせた。あの程度なら、動き回るのにも支障はないが、そうだな・・・あと6時間は起きないだろう」
「体の中にまで影響を?待って、そんな状況なのに、君はさっきL.L.と・・・」

そこまで口にして、僕はまずいと慌てて口を噤んだ。
気配を殺し、音を殺して覗き見た事を自分から話してどうする。
その様子に、呆れたようにC.C.はこちらを見た。

「覗いていたのは知っているが、そういう勘違いをしたか。まあ別に構わないが、L.L.は無理をしていたんだよ。だから睡眠薬と痛み止めが効くまでの間、少しでも神経の痛みを和らげるためにマッサージをしていただけだ。うつ伏せに寝たあいつの上に乗ってな。火傷のせいか、妙に寒かったから、私はタオルケットを掛けていたが・・・まあ、お前の位置からはそう見えなくもないか」

僕が見たのは、肩からタオルケットを掛け、L.L.の上に乗って体を動かしているC.C.の姿。すぐに目を逸らしたので、その下に衣服を着ているとか、L.L.がうつ伏せだったかまでは確認していない。僕は自分の妄想を恥じて顔を伏せた。

「ご、ごめん」
「別に謝る事は無いさ。でも、私もこうして腕を痛めているから、どうせならL.L.が眠るまで手伝って欲しかったが、声をかけた時にはもうドアは閉まっていて、お前は行ってしまっていた。まあ、そういう勘違いをしたなら、あの場からさっさと離れたかったという理由はよく解った」

再び端末に視線を戻しながらそう言うC.C.に、僕はえ?と、思わず声を上げた。

「お前、L.L.に惚れただろう?隠さなくてもいい。L.L.は全く気付いていないが、あれが鈍感な分、私はその手の事には敏感だ」
「え?あ、えと、え?」

僕が彼を好きだと気付いたのはついさっきだ。
なのに既にあの時点でC.C.は気付いていたと言う。
その事に、僕は動揺し、言葉を続ける事が出来なかった。
そんな僕の様子に呆れた様子のC.C.は、端末から再びこちらに視線を戻した。

「・・・お前、自分で気づいてなかったのか?私という美女を前にして、お前が目で追っていたのはL.L.だ。そして私には偶にではあるが、嫉妬に近い視線を向けていた。それにしても意外だったぞ?お前が同性愛者だとはな。まあ、お前は顔も可愛いから、その手の男」
「ま、まって、僕は同性愛者じゃない!ノーマルだ!」

C.C.のその発言に、僕は慌てて否定し、言葉を遮った。
冗談じゃない。
今まで付きあって来たのは全員女性だし、男同士なんてそんな気持ちの悪い事・・・。
そこまで考えて、僕の思考は停止した。

「ならL.L.は対象外か?いくらあれが美人でも男だ。私との事を想像したぐらいだから、理解はしているようだが?」
「・・・うん」

そう、彼は男だ。だけど僕が好きになったのはC.C.ではなくL.L.で。
L.L.の上に乗っていたC.C.に嫉妬し、それを許したL.L.にも嫉妬した。
だけど、え?同性愛?男同士?

「・・・まあ、私が言うのも何だが、あれは美しい。男同士なんて気持ち悪いと考えるノーマルでも、あいつなら、という者が殆だから、まあ、そんな深刻に悩むな」

思わず眉間に皺を寄せ、頭を抱えんばかりに悩みだした僕の肩をぽんと叩きながら、まるで慰めるかのようにC.C.は言った。

「だが、これだけは言っておく。L.L.は私の物だ。あれはやらんぞ」

C.C.はにこやかな勝者の笑みでしっかりと僕に釘をさす事も忘れなかった。
その彼女の態度に、僕の眉間の皺が深くなる。

「嫌だ。彼は僕が貰う」
「図々しい男だな、やらんと言っている。私達の見た目だけで寄ってくる輩など、こんな事でもない限り排除の対象でしかないんだからな。それに、こう言う病を抱えている以上、普通の人間と共に暮らすのは難しい」
「あの年になるまでL.L.は発病してなかったんだろ?でも君と暮らしてたんだよね?」
「たしかにL.L.は発病前から私と暮らしてはいるが、あれはこの病を良く理解していたからな。遺伝なんだ、これは。あれの身内にも同じ病の者がいる」
「遺伝?君とL.L.は身内なの?」
「血縁関係は無い。だが、この病を持つ者同士交流があって、それで知り合ったような物だ」

そこまで話をした時、ピンポーンとチャイムが鳴り、僕達はそちらに視線を向けた。

「お前が呼んだ業者じゃないのか?私は出ないからな、お前が対応しろ」

C.C.にそう言われ、時計を見ると既に約束の時間から10分も過ぎていた。
僕は慌ててドアの向こうに返事をしながら階段を駆け降りた。
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