夜の隣人 第19話

「そうと決まれば買い出しに行って来るか。枢木は沢山食べるだろうから、今ある材料では足りない」

L.L.はそう言いながら席を立ち、急須や湯飲みをお盆に乗せた。

「仕方ないな、付き合ってやるよL.L.」

C.C.もそう言いながらテーブルの上を片付け始めた。

「枢木も1週間此処に住むのなら準備があるだろう?俺たちはこれから買い出しに出るから、お前も一度準備に戻れ」
「うん、そうするけど、何処に買いに行くの?」

スザクも湯飲みをお盆に置き、借りていた端末をC.C.へ返しながら聞いた。

「隣町にあるショッピングモールだ。あそこは24時間営業だからこの時間からでも買い物が出来るんだ」
「それって、ブリタニア教団の近くにある?」

隣町、24時間。
そのキーワードが示すショッピングモールは一つしか思い浮かばない。
本部から徒歩で30分ほどの距離にある、大型ショッピングモール。よくロイドの買い出しに行かされる場所だ。

「ああ。俺達はこんな体質だからな。夜にも開いているあの店にはよく行っている」

成程。と、スザクは納得し、頷いた。
人工の光なら問題の無い体質なのだから、完全に日が落ちた時間帯に生活必需品が買える店は確かに貴重だろう。

「じゃあ、僕、用意したらその店で待ってるよ。食費に関しては、こちらで持つし、荷物持ちもやるよ?」
「それはいい。お前はL.L.と違って力はありそうだ。では、食品売り場で落ち合おう」
「わかった、じゃあ先に行くね」

スザクはそう言うと、すぐに屋敷の外にあるランスロットの元へ移動した。
残されたC.C.とL.L.はランスロットのエンジン音が遠くなるのを聞いてから、顔を見合わせた。

「・・・随分と気にいったようだな、枢木の事を」

珍しい事もある物だ。
驚きと寂しさをにじませた声音で、L.L.はぼそりとそう呟いた。

「何を言ってるんだL.L.。私が誰を気にいったと?」

C.C.は僅かに眉根を寄せ、不機嫌そうに言った。
スザクへの対応をC.C.がしていたのは、スザクとL.L.に会話をさせたくなかっただけで、好意からではない。ただの嫉妬から来るものなのだが、どうやらL.L.は勘違いをしたようだった。

「枢木だ。まさか新作ゲームのテストまでさせてるとは思わなかったぞ?」
「こちらが欲しい情報を吐かせるためには、相手にある程度の情報を見せた方が楽だろう?おかげでいろいろあの男は話してくれたよ」

こちらに対する警戒心はかなり薄れたんじゃないか?
スザクだって最初は気にいらなかったのだ。そのスザクにあれだけ似ている枢木を気に入るなんて天地が引っ繰り返っても有り得ないよ。とC.C.は断言した。

「そうか」

屋敷を出て行った男の姿を追うように、L.L.は視線をC.C.からドアの方へと移した。
朝、地下の部屋へ乗り込んできた姿を見た時、スザクだと、そう思った。
生きていたのか、と。死んだと言うのは俺の夢か何かで、本当は生きていたのだと、一瞬そう思い、心の中が歓喜に満たされた。
だが、破壊されたドアと、最初向けてきた視線の意味、そしてその衣装を見て、なぜここに来たかすぐに解り、なぜスザクが?と、俺の頭は混乱した。
その後の話で別人だと言う事はすぐ解ったが、それでもあの姿と名前、そして声に惑わされる。なによりあの瞳はスザクと同じ色と、同じ輝きを宿していて、その笑顔もあまりにもスザクに似ていて。
別人である彼にスザクと何度も呼びかけそうになった。
唯一の救いは性格の違いだろう。スザクはあんなに大人しくない。猪突猛進の体力馬鹿で、人を振り回してばかりなのがスザクだ。
言葉づかいも違うし、何よりスザクは自分の事を俺と呼ぶ。
そんなL.L.の様子を見ていたC.C.は心配そうな表情を顔に乗せ、L.L.の頭に手を伸ばすと優しくその髪を撫でた。

「惑わされるなよL.L.、あれはスザクではない。似すぎるぐらい似ているが、別人だ」

そのC.C.の言葉に、L.L.は辛そうに顔を歪めた。

「・・・解っているさC.C.。俺は、目の前でスザクが死ぬのを見たんだ。そして死んだスザクの死体をこの手で抱いた。言われなくても解っている」

そう言いながらL.L.は自分の両手をじっと見つめた。あの時この両手はスザクの血で真っ赤だった。頭から大量の血を流し息絶えたスザク。死んでいると頭で解っていても、まだ暖かい体を離す事が出来ず、C.C.に無理やり引き離されるまでこの手で抱きしめていたのだ。
忘れる筈がない。スザクは死んだ。あの枢木はスザクではない。
いくら似ていても別人だ。
俺の親友は死んだ。
どれだけ似ていても、スザクではない。
代わりなんていらない。
俺の親友のスザクはアイツ一人だけだ。

「ならいい。辛いだろうが、1週間我慢しようL.L.。そして全てが終わったら別の土地に行こう。そうだな、南がいい」
「北じゃなかったのか?」
「寒いのは嫌だ。春のような陽気の場所がいいな」

それに、私達を追いかけて北を探しそうじゃないか、あの男。だから北にはいかない。
次に行く場所は何処がいいか、そんな話しをしながら私達は車に乗り込んだ。
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