夜の隣人 第20 話

特派の格納庫へランスロットを置いた後、応接室兼休憩室へと足を踏み入れると、そこには死にそうなほど顔を青ざめた上司と、にこにことした満面の笑顔の女性がいた。
上司であるロイドは、僕の顔を見るなり、助かったと言うような顔で「お帰りスザク君!」と、やや裏返った声でそう言った。そのロイドの視線で気がついた女性、セシルはスザクへと顔を向けると、にこやかな笑みで笑いかけた。
その手にはお盆があり、そのお盆の上にはお皿があり, お皿の中には一見美味しそうに見えるホットドッグが乗っていた。
ただし、掛っているのはケチャップやマスタードではなく、緑色の謎の液体。
それを目にし、思わずスザクの顔は強張った笑みを浮かべた。

「おかえりなさい、スザク君。大変だったわね」
「ただ今戻りましたセシルさん」

一瞬で強張った顔を通常の笑顔に戻したスザクは、青ざめていたロイドがテーブルに広げていた資料に気が付き、ソファーに座ると、その資料を手に取った。
色素性乾皮症に関する詳細な情報、二人の火傷の拡大写真、医師の証明書、それに対するロイドの見解など。そして近隣住人が犯している犯罪に関する資料。

「凄いですね、もうここまで出来たんですか?」

どうにかセシルの料理を食べずに済ませたいロイドは、スザクが話を振って来た事で、喜びの表情を浮かべた。いそいそとソファーに座ると、資料をまとめ出したので、セシルも今は無理だろうと諦め、その謎のソースがかかったホットドッグをテーブルに置き、ソファーに座った。

「セシル君も戻っていたし、君も十分すぎる情報を送ってくれたからね。あの動画と録音も一緒に渡せば、問題なく二人は無罪。お~め~で~と~」

ホットドックから逃れる事が出来たのがよほどうれしかったのか、満面の笑みと、嬉しそうな声でロイドはそう言った。
セシルは良い人なのだが、創作料理が趣味で、はっきり言って不味い。
セシル自身の味覚は正常なのに、どうして余計なひと手間と、余計な材料を使うのだろう。何時も見た目は美味しそうで、その創作部分がなければといつも思う。

「お二人に酷い火傷を負わせてしまったけれど、この映像と写真のおかげで魔女狩り特例も問題なく適用されるわ。あとは全ての手続きが終わるまで何事もなければいいのだけど」

セシルは資料の内容を確認しながら、心配だと手を頬に当てながら嘆息した。

「ああ、その点は何とかなりそうです。二人は協力的なので、僕があの家に住む事も了承してくれました」
「そうなの?それは良かった」

ホッとしたような顔で、セシルはそう言った。

「なら当面の問題は回避されそうだね。ならスザク君、早く二人の所に戻らないと。定時連絡はいつも通りランスロット経由でいいよ。セシル君も当分本部待機にしたから、連絡くれればセシル君が必要な退魔具届けたりできるからね。近いからって無理してここに戻らなくていいよ」

あと、君が吸血鬼になったって噂が流れないよう、君はちゃんと昼間外に出るように。

「はい、わかりました。今二人ともこの近くのショッピングモールに買い物に来ているはずなので、そこで合流します」
「あのお店に?1時間もかけてわざわざ?」

僕のその言葉に、ロイドはどうして?と、不思議そうな視線を向けてきた。

「あのお店、24時間営業なので、二人はよく買い物に来ているそうですよ」
「ああ、成程」

自分では普段買い物などしないから24時間営業だと言う事を失念していたらしい。ロイドは納得と言う顔で頷いたが、今度はセシルが「あら?」と、小首を傾げた。

「そう言えば、最近夜になるとあのお店に、とても綺麗な人が買い物に来るって噂になっていたわね。モデルや俳優じゃないかって、受付の子達も調べてみたようだけど、検索に引っかからなかったって・・・もしかして、お二人がそうだったのかしら」

詳しく話を聞くと、黒髪に緑髪の男女で、いつも夜遅くに買い物にきて、食料品などを買って帰るらしい。美しいその容姿に、客だけではなく従業員も目が釘付けになるほどで、その噂を聞いた芸能プロダクションがスカウトをしようとやってくるようだが、二人の現実離れした容姿と優雅なたち振る舞いになかなか声をかけられないのだとか。
その内容に、スザクは思わず苦笑した。あれだけの容姿で大型ショッピングモールに行けば、人目を引き噂になっていてもおかしくは無い。おそらく二人の性格だ。変装などしないだろうし、周りの視線も気にせず自由気ままに店内を歩き回っているに違いない。そして多くの人間の目を引き寄せるのだ。
その光景を想像し、スザクの心の中に、暗い感情がふつふつと沸き上がって来た。
嫉妬と独占欲。
その炎がスザクをじりじりと焦がす。
ああ、早く行かなければ。早く会いたい。

「多分L.L.とC.C.ですね。じゃあ、僕準備して行きます。大丈夫だとは思うけど、ショッピングモールで何かあっても困るし、一応荷物持ちをする約束をしているので」
「うん、そうした方がいいと思うよ~」

いつ勇者が二人に声をかけるか解らないしね~。

「頑張ってねスザク君。はい、これカード。領収書も忘れないでね」

スザクはカードを受け取ると、足早に自室へ戻った。
後ろからロイドの悲鳴が聞こえてきたが、被害が自分じゃなければいいと、スザクは気にもしなかった。
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