夜の隣人 第21話

組織の制服から私服へと着替えてから簡単に荷物を纏めると、スザクはランスロットに乗って待ち合わせ場所であるショッピングモールへと急いだ。
ランスロットをバイク置き場に止め、荷物をロッカーに預けると食品売り場へ向かう。
そこは、平日の夜遅くだと言うのに、買い物客が溢れて大変混雑していた。
特売か何かあったのだろうか?
普段食品売り場なんて立ち寄らない上に、チラシなんてチェックしないスザクは、まあ自分には関係ないかと、人の少なそうな場所から二人を探し始めた。だが、ほんの2.3分ほど食品売り場を歩いただけだが、スザクは何かがおかしいと思い始めていた。
人が集まっている場所は特定の場所というわけではなく、何やら一定のペースで動いているようだった。先ほどは野菜売り場付近、今は徐々に肉売り場へ移動しているように見える。店員が歩きながら特売品の値札の張り替えとかをしているのだろうか?それに客がついて言っている?だが、良く見るとその手に籠一つ持っていない客の姿も目に付いた。
何かを買う目的ではないのに、人だかりが?
つま先立ちで中を覗こうとするその様子に、買うのが目的ではなく、何かを見ようとしているのか?と、そこまで考えた時、スザクはまさかと嫌な予感を抱いた。
人ごみの動きを読んで先回りすると、人の壁をかき分けて、その中心へと足を進めた。そして。

「うわぁ・・・」

あまりの状況に、スザクは呆れと驚きの入り混じった声を上げた。
まさかとは思ったのだが、本当にそうだなんて。
人だかりの中心部には周りの状況など気にしていない様子のL.L.とC.C.がいて、C.C.が押しているカートの中に、L.L.が食材を入れていた。
王子様とお姫様と言われてもおかしくは無い容姿とたち振る舞いの二人が、食品売り場で買い物をしている姿は妙な違和感を感じなくはないが、スザクが問題としたのは、二人の行動ではなかった。
鮮度を確認する為だろうか。幾つか同じ商品を手に取り、C.C.と一緒にその中から一つを選んで籠へ入れると、彼が選ばなかった方の商品を人々が奪い合っていたのだ。
C.C.はそんな様子の客に冷たい視線を送るが、L.L.は食材選びに集中しているのか、無反応だった。
それともこれが日常過ぎて感覚がマヒしたのだろうか?
一定の間隔をあけ、普通の客を装いながらも彼らを囲み移動する人の輪からどうにか抜け出したスザクは、足早に2人の元へと向かった。
そんなスザクの行動に、非難がましい声や、冷たい視線が向けられたが気にするつもりは無い。
そんなざわめきに気がついたC.C.は、こちらに視線を向けると「遅いぞ荷物持ち」と、口角を上げ声をかけてきた。その声でL.L.もまたこちらへ視線を向けた。
商品の棚に向けられていた彼の顔がこちらに向けられた事で、周りのざわめきがあからさまに静かになる。

「遅くなってごめんね。C.C.、僕がカートを押すよ」

そう言いながら、C.C.が押していたカートを受け取ると、当然だとC.C.は腕を腰に当てながら言った。

「すまないな枢木。この店はいつも混んでいるから、ここまで来るのも大変だっただろう?」

苦笑しながらL.L.がそう言うので、L.L.はこの店が常時このような混雑をしていると勘違いしている事が分かった。
まさか自分達の居る場所限定の混雑だなんて、常に中心にいる者にはわからないのかもしれない。まあ、C.C.は解っているようだが、こうやって遠巻きに集まっている程度なら鬱陶しいが害は無いと判断して放置しているのだろう。

「所で何か食べたい物は無いか?どうせだからな、お前の好きな物を作ってやるよ」
「え?じゃあハンバーグ」

その言葉に、僕は即答した。

「ハンバーグ?」

L.L.は僅かに眉を寄せながらそう聞いてきので、ハンバーグが好きなんて子供っぽいと思われたかな?とも思ったが、一番の大好物なのだから仕方がない。

「そう、デミグラスソースがかかったハンバーグ。僕大好きなんだ」

笑みを乗せながらそう答えると、L.L.は一瞬視線を彷徨わせた後、解ったと頷いた。

「そうか。では、ひき肉を買わないとな」

他の材料はあるから、ひき肉だけ買い足せば問題は無い。
そう言いながらひき肉コーナーへ足を進め、どれにしようかとひき肉のパックを手に取るL.L.と困ったような顔でこちらを見るC.C.。

「・・・どうしたのさC.C.」

もしかしてL.L.かC.C.、どちらかが嫌いなのだったのだろうか。ハンバーグが嫌いなんて人がいるなんて思えないけれど。

「もしかして、ハンバーグ作った事がないのかな?」

可能性があるとしたらそれしか考えられなかった。

「いいや、期待するといい。L.L.のデミグラスハンバーグは絶品だ。アイツの得意料理の一つだよ」
「本当?やった。楽しみだな」

僕はその言葉に、好きな人の得意料理が僕の好物!と、素直に喜びの声を上げた。
でも、それがどうして顔を曇らせる理由になるのだろう。

「見た目だけではなく、好きな食べ物まで同じとはな。つくづくお前はスザクにそっくりだ」

淡々とした口調で、C.C.はスザクの心に突き刺さる一言を投げかけた。
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