夜の隣人 第22話

「ふう、満腹だ。もう食べられない」

C.C.は満足そうに自分のお腹をさすりながらそう言った。

「C.C.、行儀が悪いぞ」
「良いじゃないかL.L.。美味しい料理を食べて今は幸せなんだ。水を差すな」
「うん、本当に美味しかった。僕、こんなに美味しいハンバーグ初めて食べたよ」

好きな人が作っ てくれたからというだけではない。
本格的なそのデミグラスソースが掛かったハンバーグは、まさにほっぺたが落ちそうなほど美味しかった。C.C.ではないが、美味しい料理でお腹がいっぱいの今は本当に幸せだなと思う。

「そうか、口に合ってよかったよ」

煎茶を口にしながらL.L.はC.C.とスザクの反応に気を良くし、にっこりと微笑んだ。
これからも、少なくても1週間彼の手料理を食べられるのは凄く嬉しいのだが、舌が肥えてしまいそうだ。この状況でセシルの創作料理を口にしたら、いつも以上の破壊力になってしまうに違いない。

「22時か。少し遅くなったが、俺はこれから庭に出る。枢木、休むなら上の寝室を使ってくれ」

L.L.が腕時計で時間を確認しそう言った。

「寝室って君達の!?」
「ああ。枢木用のベッドは買ったが、明日にならないと届かないから、今日は俺達が使っている物で我慢してくれ。俺とC.C.は夜が活動時間だから、朝まで使用しない」
「え、あ、そうか。うん、解った。後で借りるね」

若干頬を赤らめ、困惑したように話すスザクを見て、C.C.はククククク、と人の悪そうな笑みを浮かべ、スザクは不愉快そうにその様子を睨みつけた。
どうしてC.C.が笑うのか、スザクが不愉快になるのか理解できないL.L.は、ああそうかと、何やら思いついたようだった。

「C.C.に悪いと思っているのか?気にする事は無い。C.C.を女性扱いするなんて、世の女性に失礼だ」

L.L.が普段使っている寝具に、しかも二人の関係が未だ不明瞭なので、もしかしたら、と思うような場所で休むと言う事に狼狽えていたスザクを見て、L.L.はどうやら女性であるC.C.も使うベッドに他人が休むなんて出来ない、きっとC.C.も嫌がるだろう。と、紳士的事を考えたんだなと勘違いをしていた。
だから、その気遣いは無駄で、L.L.はC.C.を女性だと思うなと言い切ったのだ。
当然この発言はC.C.にとって不愉快極まりない物で、L.L.を睨みつけ、何時になく低い声音で口を開いた。

「おい待てL.L.。それはどういう事だ」
「言葉のままの意味だが?」
「相変わらず失礼な男だ。私ほどの美少女に対し、よくそんな事が言えるな」

見た目だけで言うならば間違い無く美少女だけど。と、スザクは思ったが、口には出さなかった。

「俺に女性らしく扱われたいと言うのであれば、もう少し御淑やかに出来ないのか?」
「ふん、これだけ見目麗しく、性格も頭もいい私が、御淑やかにしてみろ。今以上にモテてしまうだろう。そんな面倒なことなどごめんだ。私は今のままが一番いいんだよ。変えるつもりは無い」
「別にお前に変わって欲しいわけじゃない。せめて他人の前ではそれなりに装えと」
「今のお前のようにか?」

その言葉に、L.L.は口を噤んだ。C.C.はニヤリと口角を上げ、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
それはつまり、今のL.L.は他人に向けて自身を装っているのであって、本来は今とは違う言動を取ると言う事なのだろうか。
その内容に、スザクは軽くショックを受けたが、二人は気付いていないようだった。
まあいい、今の姿が装っている物なら、是非素の彼を引き出さなくては。
他人に分類されている間は無理かもしれない。
まずは友人に分類されるようになろう。

「・・・もういい。俺は庭を見てくるが、お前はどうするんだ?」
「仕方ないから付き合ってやるよ」
「僕も付いて言っていいかな?」

席を立った二人にそう声をかけると「まだ寝なくて大丈夫なのか?」と、心配そうに言われた。

「こんなに早い時間には、流石に眠れないよ。今日は碌に体を動かしていないから余計にね」
「動かしていないって・・・あれだけの荷物を運んでもらったし、ここと教団本部の往復、片道1時間だから少なくても3時間は走っているだろう?それに朝の事もある。十分動いているじゃないか」
「それに加え、徒歩30分の場所にある飲食店にも行ったらしいが、枢木はお前と違って体力があるから、その程度では動いた事に入らないだけだ。むしろお前は体力がなさすぎる」
「俺は平均的だ。お前と枢木の体力あり過ぎるんだろう」

体力がない事を、それなりに自覚しているL.L.は、口ではそう言いながらも、悔しそうな表情を顔に乗せた。
ちなみに買い物に出るとき車の運転はC.C.がしている。
L.L.に運転させる事もあるが、買い物のため店内を歩き回るだけで疲れたような顔をするので、L.L.に運転はさせないようにしているのだ。
どうしてだろうな、これだけ家事を完ぺきにこなし、家の掃除や修復もしているのに、L.L.は一向に体力がつかない。
寧ろそれらを止めればさらに貧弱になるのだろう。
男として考えるなら可哀想な体質だな。と、C.C.は自分より腰の細そうなL.L.の体をじっと見た。
食が細いのも原因の一つだが、まあ、この顔でがっちりとした筋肉がついていても、それはそれで気持ち悪いか。
こいつはこのままがいいな。うん。

「そう言う事にしておいてやるよL.L.。枢木がいるなら、昨日諦めた場所の修復も出来そうだし、体を動かした方が眠れると言うなら手伝ってもらおう」
「うん、任せて。体力には自信あるから、僕に出来る事なら何でもやるよ」

大人しく二人のやり取りを聞いていたスザクは、L.L.ににっこりと微笑みながらそう言った。
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