夜の隣人 第23話

外に出ると、まずは家庭菜園を確認する。と、L.L.は裏庭を目指した。
施錠する様子もなく、窓も何ヶ所か開け放った状態なので、鍵をかけなくていいのか聞いたところ、夜は吸血鬼の天下だから、町の連中は忍びこまないようだと、C.C.は事も無げに答えた。
確かに吸血鬼が住むという前提ならそれも解るが、その噂を知らない人もいるだろう。防犯意識が高いのか、低いのか解らない彼らの行動に、スザクは眉尻を下げた。

「冗談だ心配するな。良い物を見せてやろうか」

私もL.L.の事は言えないな。
お前のその顔には弱いらしい。
そう言いながら、C.C.はその手に持っていた携帯の画面を開いた。
そこには屋敷の庭も含む地図が描かれており、画面は一面淡い緑に塗られていた。
いや、一部赤い色もある。
まるで誰かが通った軌跡を描いているような赤い線。

「一見して分からないだろうが、この屋敷のいたるところにセンサーが仕掛けられている。私とL.L.には反応しないセンサーだが、ほら、お前が歩いた場所は赤に変わっているだろう」

成程、この赤い軌跡は僕の物か。

「後でL.L.に言って、お前もセンサーにかからないようにするが、本来ならこうやって赤く表示された時点で、私のこの携帯のバイブが振動するようになっているんだ。バイブは今は切っているが、侵入者の有無はこうやって判断できる」

それはつまり、初日にこの庭にスザクが侵入していたことも知った上で放置していた、ということではないのだろうか。
C.C.はスザクの考えに気づいているのかいないのか、淡々と言葉を続けた。

「まあ、侵入された場合、万一に備えて逃げる準備をし、住民が屋敷内まで押し込んできた時に備えるから、此処最近は寝不足だったんだ。ああ、L.L.の携帯にもデータは飛ぶがバイブは設定していないから、アイツは何時もぐっすり夢の中だ」

そう言いながら、C.C.は携帯をポケットにしまった。
L.L.が立ち止まったので視線をそちらに向けると、目の前には家庭菜園があり、綺麗に植えられた苗は、踏み荒らされることなくみずみずしい葉を広げていた。

「今日は天気が良かったらしいな、水を撒くか」

そう言いながら屋敷の裏へと歩みを進めたL.L.に着いて屋敷裏へ向かった。
屋敷内への裏口とは別の扉を開くと、そこは物置となっており、L.L.は明りを付けるとその中へと入っていった。
綺麗に整頓された物置の奥から重そうなホースリールを取ろうとしていたので「僕が持つよ」と、スザクはそのホースを手に取った。

「ああ、すまないな。蛇口はそこにあるんだ」

L.L.が指差した場所は物置の入り口付近で、そこには洗い場と蛇口があり、僕はホースリールの片側をそこに嵌めこんだ。
カチリと金具がはまる音がしたのを確認し、本体を片手に物置を出る。
運んだホースリールを菜園に置くと、C.C.が手を伸ばし、散水を始めた。

「今日荒らされなかったのは業者が来たりしたからかな?それとも僕が居たから?」

荒らされた菜園の姿を思い出しながら、スザクはL.L.に訊ねた。

「いや、荒らされるのは実ってからなんだ。性格には、最初の実りが熟した頃だな。おかげでまだ青いものは全て踏みつぶされてしまう」
「ああ、そう言えば、実った頃に全部引き抜くようにしているって言ってたな」

扇達から聞いた話を思い出し、僕はそう言った。

「誰が言ったんだそんな事」

眉根を寄せながらL.L.がそう聞いてきた。今のスザクの言葉が聞こえたのだろうC.C.も散水を一度やめ、こちらへ向かってきていた。

「君たちを吸血鬼だと言ってきた連中だよ。何かの薬を調合する材料に違いないから、全部引き抜いてしまうんだって言ってた」
「は?薬だと?トマトやキュウリやパプリカで薬だと?何を考えてるんだ?それこそスーパーやコンビニで買える物だぞ!?」

ものすごい剣幕で詰め寄るのはC.C.で、スザクは「ちょっ、僕が言ったんじゃないよ」と、慌ててそう言った。L.L.は呆れたような、冗談を言っているんじゃないだろうかと疑うような眼差しを向けてくる。

「偶然だけど、入った飲食店に犯人が居たんだよ。僕が教団の人間だって解ると、君達にした嫌がらせや、器物破損とかの犯罪の類を、自慢げに話したんだ。あれにはびっくりしたよ、自分たちは正しい事をしている、自分たちがこういう行動をしているから周りに被害がないんだって顔して僕に話すんだよ。ちなみに刈り取った花は知り合いの女性にプレゼントしたんだってさ」

あ、あと彼らが仕掛けたと思われる盗聴器の類は全部撤去しておいたよ。
L.L.は頭痛がすると言いたげにこめかみを押さえながら、C.C.は信じられない内容だと、目を座らせ、腕を組みながらスザクの信じがたいがおそらく真実なのだろう言葉を聞いていた。

「呆れてものも言えないが、枢木が魔女狩りを危惧した理由は解ったよ」

L.L.は呆れたように嘆息し、そう言った。

「むしろ、そんな事を堂々と、しかもブリタニア教団の団員に話す神経が信じられないが・・・自分の言動が正しい、正義なのだと思っているんだろうな。ああ、恐ろしい恐ろしい。私は魔物よりよっぽど人間の方が恐ろしいよ」

そう言いながら、C.C.はホースを片手に、散水の続きを始めた。
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