夜の隣人 第24話 |
24時を回った頃裏庭の修復も無事終え、お風呂を借りて汗を流したスザクは、ダイニングからいい匂いがしている事に気がつき、迷うことなく足を向けた。 部屋に入ると、その匂いはさらに強まり、スザクの胃を強烈に刺激した。 見るとテーブルの上には、焼き立てのピザとクッキーが入ったお皿が置かれている。 「美味しそう」 そのピザはブロッコリーにピーマンだろうか?色とりどりの野菜とベーコンが所せましと置かれ、たっぷりのトマトソースが塗られていた。 見た目だけでもおいしそうだが、溶けたチーズが香ばしい匂いを放っていて、それが一番食欲を刺激していた。 思わず呟いたその言葉に、焼き立てのピザをピザカッターで切っていたC.C.がにやりと笑った。 「美味いぞ。ピザもL.L.の得意料理だからな」 「・・・一切れ頂戴?」 「やらん。これは私のだ。全部私が食べるんだ」 断固拒否。 そう顔に書いているC.C.にこれ以上言っても意味は無いなとスザクさっさと諦めた。 そして、キッチンで何やら作業をしているL.L.の元へ向かった。 「L.L.、僕もピザ食べたいな。もうないの?」 そう尋ねながら彼の手元を見ると、ピザ生地の上に先ほどとは少し違うトッピングをしているところだった。 「枢木は今から寝るんじゃなかったのか?」 「寝るけど、こんな美味しそうな匂いがしてるのに、食べないで寝るなんて出来ないよ」 「だが、寝る前にピザなんて胃にもたれるんじゃないか?」 「大丈夫、そんなに軟な胃じゃないから」 おそらく、寝る前にピザを食べると胸やけをするのであろうL.L.は「それならいいが。少し待ってくれ」と言い置いて、丁度トッピングが終わったピザをオーブンへ入れた。 「それは私のだぞ!」 L.L.の行動に驚いたC.C.は食べかけのピザを片手に慌ててキッチンへやってきて、そう講義した。 本当にピザが好きなんだな、CCには悪いけどこれは是非食べたい。 絶対に美味しいに決まっている。 「良いじゃないか1枚ぐらい。無くなったらまた作ってやるよ」 「1枚ぐらいだと?私の至高のピザを1枚ぐらいだと!?」 「その至高のピザを焼いているのは俺だ。文句を言うならもう作るのをやめようかな」 「っ!!!だっだめだ!わかった、今焼いているのは枢木にあげてもいいから、作らないなんてそんな事言わないでくれ!」 必死な顔でそういうC.C.と、素知らぬ顔のL.L.。 ごめんねC.C.、このやり取りはこれから何回もする事になると思うよ。 僕がこのピザを食べないという選択肢は無さそうだ。 C.C.がL.L.を説得している間に焼き上がったピザを頬張りながら、スザクはそう心の中で謝った。 これは確かに至高のピザだ。 沢山チーズが乗っているというのに、見た目に反して結構あっさりとしていて、乗っている具材も当然美味しいが、何より生地とトマトソースが絶品だ。 サイズで言うならM。 それをぺろりと1枚平らげた。 L.L.とC.C.はこれから地下で映画鑑賞会、つまり今朝の続きをするのだと言う。 一緒に見たいと言う要望は、もう寝る時間だから駄目だとL.L.にあっさりと却下され、エントランスで二人と別れたスザクは、寝室に入るとベッドの中へもぐりこんだ。 「・・・参ったな。眠れる気がしない」 彼との他愛のない会話で心が満たされ、彼が作ったおいしい料理で体も満たされ、彼の寝具に身を預けている。 本来なら幸せな気持ちでゆっくり休めそうなものだが、初めて知った感情が今も激しくスザクの心を揺り動かす。 この感情の赴くまま行動したい所だが、それをすれば確実に嫌われるだろう。 それだけは避けるべきだ。 焦るな、まだ始まったばかりなのだから。 やはり少し体を動かそうと、スザクはベッドから出ると、軽いストレッチを始めた。 目が覚め、時計を見ると6時だった。 分厚いカーテンが閉められている為部屋の中は真っ暗で、時間がわかりにくい。 部屋の照明をつけ、手早く着替えてスザクは部屋を出た。 屋敷の中はしんと静まっており、その上分厚いカーテンで真っ暗なので、早朝だとはとても思えなかった。 気配を殺し、物音を立てることなく、屋敷内を巡回する。 階段の仕掛けは作動していなかったから、地下に居る二人は問題ない。 侵入者はいないはずだが、念の為目視でも確認しておかなければ。 それに、閉め忘れたカーテンがあったら二人が火傷をしてしまう。 全ての部屋に異常がない事を確認し終えたスザクは、屋敷の外へ出た。 昨夜のうちに合いカギと共に、センサーに反応しなくなる為の小さな装置を渡された。 それは今キーホルダーのように合いカギに括りつけられている。 施錠をしっかりとした後、屋敷の周りも調べて歩く。 昨夜と違う場所は無いか、再び盗聴器などセットされていないか。 全て見て回った後、盗聴器などは無かったが、やはり誰かが侵入してきたのであろう痕跡は幾つか発見できた。 あれだけ言っても解らないのか、あるいは別の誰かか。 周囲の確認を終えた後、時計を見るとまだ7時。 普段は7時には朝食・・・二人にとっては夕食を取るらしいが、昨夜から見ている映画は数十年前の大長編物らしく、全編通して8時間はかかるのだとか。 一気に見るとC.C.が意気込んでいたので、9時を過ぎなければ二人は出てこないだろう。 朝食は残念ながら今日は食べさせてもらえないので、外で食べるしかない。 走り込みがてら町の中を見て回り、朝から空いているお店があれば入ればいいし、なければコンビニ弁当を買えばいい。 スザクは門を開け、まだ人気の少ない町へと向かった。 |