夜の隣人 第26話 |
お弁当を買いに寄ったコンビニで聞いた所、この辺りでお昼時前に空いている飲食店は扇の店だけなのだという。 「あの店には行かない方がいいよ。この近辺に住むものは誰も行かない店だから」 店員は嫌そうな顔でそう忠告してくれた。 やはり彼らは、この辺りの住人にも煙たがれる事をしているらしい。 その忠告、もっと早く聞きたかったな。 そう思いながらも口にはせず、お弁当類を手に屋敷へと戻った。 侵入した者がいないか確認し、裏口から中へと入る。 暗い室内に人工的な明かりを灯しながら、しんと静まり返っている屋敷内を歩き、ダイニングへ向かった。 真っ暗なダイニングはまだ彼らが地下から戻ってきていない事を示していた。 ダイニングテーブルの上に買い物袋を置く。 今後の事も考えて、保存のきく食品や飲み物も購入したため、結構な量だった。 まずはこの空腹を満たそうと、袋の一つからカップ麺を取り出し、早速口にする。 コンビニでお湯を入れたため、すでに冷めている上に伸びてしまっている。 本当はお湯をここで沸かして作りたかったが、流石に家主に黙ってキッチンを借りるのはまずい。C.C.はともかく、L.L.には嫌われたくないのだ。 「まあ、扇の店のパスタよりは美味しいよね」 汁をかなり吸い込んで伸びきっている麺をずるずると啜り、ハンバーガーにガブリと噛みついていると、何やら話声が聞こえてきた。 時計を見ると10時。二人の映画鑑賞会は終わったらしい。 映画の感想を話しながらC.C.はダイニングの扉を開いた。 「だからやはり吸血鬼というものは・・・なんだ枢木。食事中か」 「おはようC.C.。朝食を食べ損ねて今食べてる所」 ごくごくとカップめんのスープを飲んでいると、C.C.はつかつかと迷うことなくテーブルの上に置かれた買い物袋へと向い、物珍しげに品物を袋から漁っていた。 「C.C.、人の物に勝手に触るな。すまないな枢木、今お茶をって、何を食べてるんだ?」 C.C.の行動に目が行っていて気がついていなかったのか、僕が食べている物を目にすると、L.L.は僕の方へと歩いてきた。 「カップ麺だけど?」 L.L.はスープも飲み干し終わったカップめんの容器を手に取り、原材料の描かれた場所をじっと見た後、眉根を寄せた。 まさかカップ麺、見た事がないのだろうか? 全てに目を通したL.L.はその柳眉を寄せた。 「なんだこれは。化学調味料がこんなに入っている物を食べているのかお前」 そう言うと、今度は僕が食べ終わったハンバーガーの袋を手に取り、更に眉根を寄せた。美人はどんな表情をしていても綺麗だなと、思わずスザクが見とれていたが、L.L.はそれに気づくことなく、C.C.が漁っていた袋を奪い、中を見た。 「・・・枢木、お前、こんな物ばかり食べてるのか?」 「なんで?市販の食べ物に化学調味料は当たり前だよ。そんな事をいちいち気にしていたら何も食べられないじゃないか」 「枢木の言う事は正しい。そう目くじらを立てて化学調味料を拒絶するな。お前のように自分で料理できるならいいが、枢木は見るからに台所など立つ人間ではない。飲食店でさえ化学調味料が含まれている物がほとんどだぞ?」 そういうと、C.C.は気になっていたのであろう、お菓子の袋を手に取ると食べていいかと聞く事もせずにそれを開け、パクリと一口食べた。 「・・・だが、味はやはりお前の方が上だな。見た目は美味しそうだから騙された。L.L.、今度こういう菓子を作ってくれ。味は真似しなくていい」 そう言いながら、美味しそうなお菓子の写真が印刷されたパッケージをL.L.へ差し出した。L.L.は眉根を寄せながら、それを受け取ると、じっとその写真を見た。ふんわりとした生地にイチゴソースと白いクリームが挟まっているお菓子だった。 「確かに美味しそうだな」 「だが、食べてみると、見た目に反して生地はぱさぱさで、口の中に張り付く上に喉が渇くし、人工的なイチゴの風味と、妙な甘ったるさが口の中に残る。クリームは、まるで油の塊を食べているようだ」 口直しにお茶を入れてくれ、というC.C.の言葉に、L.L.はキッチンへ向かった。 そんな後ろ姿を見ながら、C.C.に酷評を受けたお菓子を一つ手に取り、スザクは口に入れた。 「そこまで言うほどかな?結構美味しいよ?」 ちょっとぱさついていて、喉は渇くけどね。 「普通に考えれば美味しいレベルだろうが、私はあのL.L.の食事を食べ続けているから、舌が肥えてしまったんだよ。昔はお前のように良く外食をしたり、コンビニで買って食べていたし、新製品が出る度に買うのが好きだったんだ。いまは外食など殆どしないし、コンビニへは急遽足りない食材が出た時野菜を買いに行くか、水を買いに行く程度にしか行かなくなった」 「そうなの?僕コンビニの野菜は買ったことないな」 「お前はそうだろう。おかげでここ1年は行っていない。L.L.はそもそも自分で作れるなら作るのが当たり前だと思っているから、カップ麺や弁当関係を買う事は無い。お菓子やお茶もだ。買うより自分で作る方が安いと言うのが理由だけどな」 あいつは主婦だから食費にも煩いんだ。 そう言いながら、C.C.もキッチンへと姿を消した。 「・・・羨ましいな」 二人の姿がキッチンに消えると、スザクはぽつりと呟いた。 つまりC.C.は毎日毎食全てL.L.の手作り料理を食べているということだ。 僕も毎日毎食食べたいな。と、考えながら弁当に手を伸ばした。 キッチンから二人が戻り、香り高い紅茶が出される頃にはスザクも食事を終えていた。 美味しい紅茶に思わず頬が緩む。 テーブルにはL.L.が作ったクッキーがお皿に盛られて置かれていた。 C.C.とスザクは、それを口に入れると、やはりさっきのお菓子より美味しいと、二人とも幸せそうな顔をしていた。 そんな中、L.L.は先ほどのパッケージをじっと見ながら紅茶を口にし、まだ残っていたそのコンビニのお菓子を一つ摘み、一口かじった。 その瞬間、眉を寄せ、目をすっと細めた。 「・・・良くこんなのを売る気になるな」 見た目はいいのに。と、L.L.は呆れたように言った。 「L.L.、良い事を教えてやろう。私とお前の舌は肥えている。枢木のような普通の舌なら、十分美味しいんだよ」 「俺達の食事は普通だぞ?舌が肥える要素など無いだろう」 その言葉にC.C.とスザクは「え?」と驚きの声を上げL.L.を見た。 「お前・・・もしかして、自分が料理上手だという自覚は無かったのか?」 「上手も何も、普通だろう。俺が作るのは一般的な家庭料理が殆だぞ?」 確かに、調味料の類は少々値が張る物を買っているが、その程度だ。 「枢木や私が美味しい美味しいとお前の料理を食べていても、何も感じなかったのか」 「枢木は社交辞令で、お前は食い意地が張っているだけだろう」 あっさりと言われたその内容に、C.C.とスザクは絶句した。 好意に関しては本当にとことん鈍いのだ。 長年一緒にいたC.C.も、まさかここまでとはと、思わず眉尻を下げた。 「L.L.、社交辞令じゃないよ。本当に君の料理はおいしい。あんなにおいしい料理僕初めてだったんだよ?」 「もしおまえが、飲食店を経営したら、大行列間違い無しだ。そのぐらいお前は料理上手だよ」 そう説明してもL.L.は信じていない様子だったが、お前たちがそう言うならそうなんだろうと、この場を収めるためにそう口にした。 「だが、飲食店を経営しているプロの方が美味いに決まっている」 あんなに原価よりも高い値段で売るのだから、そうでなければいけない。 メニューを見て、原価がどれだけか瞬時に解ってしまう為、そんなお金を払って食べたいとは思わないが、素人である自分より遥かにおいしい物を作っているはずだ。 その言葉に、「そうでもないよ」と、スザクは声を上げた。 「僕、昨日飲食店でクリームパスタを頼んだんだ。君たちが火傷を負って、眠っている間にね。・・・あれは、酷かったよ。クリームパスタじゃなく、なぜかミートソースが掛っていたし・・・おそらくレトルトだと思うけど、ミートソースは冷たかった。それだけじゃないんだよ、パスタが殆ど生で、噛むとパリパリ音がするんだ」 「ちょっと待て、そんな物を、仮にも食べ物を売りにする店が出すのか!?」 あまりの内容にL.L.は驚きの声を上げた。 C.C.も「流石に作り話だろう、もう少し考えろ」と呆れた様子で言って来る。 「残念ながら本当の話だよ。ちなみに出てきたコーヒーは薄すぎて色の付いたお湯だった。そんな物にお金を払ったんだよ、僕」 普通あれだけやらかしたらタダにするものだが、しっかりパスタ分もお金を取られた。 真剣な目でそう語る僕に、嘘をついていない事が解ったのだろう。 本当なのか?と、C.C.は驚きの声を上げ、素材を無駄にする不味い料理を作るなど、食べ物に対する侮辱だと憤慨している。 あまりの内容に、L.L.は眉をしかめた。 「まあ、あの店主の友人も丁度そこにいて、僕が食べるのをやめたパスタを一口食べて不味いって言ってたんだけどね。今朝、その友人に会ったんだ。そしたら朝食をその店で食べないかって誘われた。あの不味いパスタはたまたまだからって」 「たまたまで済ませるのか?」 その内容にまた驚いたC.C.は声を上げた。 「済ませるみたい」 「・・・最悪だな」 L.L.は呆れたように嘆息した。 「まあ、これは極端な例で、普通はこんな事そうそう無いよ。でも、飲食店を経営しているからおいしいとは限らない。そして、君はたしかにプロではないけど、君の作る料理もお菓子も、そして入れてくれるお茶も全部美味しい。C.C.が君の作ったピザを至高のピザって言ってただろ?あれには僕も同意だよ。君がピザの専門店をやったら、人気が出過ぎて予約制になるだろうね」 もちろん他の料理でもそうなるだろうけど。 スザクは美味しいクッキーを齧りながらそう言った。 全然関係ありませんが。 私が食べて不味い!と思った飲食店No1は浅草にあったお店。 丼物を頼んだんですが、奥からレンジのチンという音が聞こえ、電気釜に長時間入れてからからに乾いた米に、あからさまに今レンチンしただろうと言う物が、しかもちゃんと温められていない生温かな状態で乗せられて出てきました。 食べるかどうか迷い、半分ぐらい残して、さっさと店を出ました。あれは本当に不味かった。量も少なかったし(ある意味助かりましたが)コンビニで済ますんだったと本気で後悔しました。 あれ以来浅草の飲食店には入りません。 |