夜の隣人 第31話 |
「ひどいなC.C.。そこまで僕、馬鹿じゃないよ。多分、うちの上司が説明を忘れたんだと思う」 忘れた?いや、違うな。 ロイドさんなら「え~、知ってると思ってたよ。だって常識でしょ?」とか言いそうだなと、スザクは眉根を寄せた。 「上司が駄目でも、誰か彼かその話をするんじゃないか?お前、人当たり良さそうなのに友達いないのか?」 「ホントに酷いよC.C.。・・・僕は日本人だから、組織内では煙たがられているんだよ。だから挨拶しただけでも嫌な顔をされる」 眉を寄せながらそう言うスザクに、C.C.は「そう言えば教団は選民意識が高かったな。すまない」と、ばつの悪そうな表情で謝った。ブリタニア人は至高の民だと言う意識が強く、外国人に対して差別を行う事は有名すぎる話だ。 そんな中に入った外国人がどれだけ粗雑に扱われるか、簡単に想像できる。 「でも、人外・・・それも吸血鬼が味方だったなんて」 僕、考えた事もないよ。 スザクはそう言いながら、最後の皿を片づけた。 空いた皿を集めながら、L.L.は普通はそうだろうなと頷いた。 「俺たちは<特別保護種>あるいは<同盟種族>というカテゴリに分けられている。そもそも魔物全てがせん滅対象ではないんだよ。詳しい話はその上司にでも聞いてみるといい」 俺たちが説明しても、本当かどうか判断はできないだろう? その言葉に、スザクは頷いた。 「なぜ一般的には全ての人外が敵と認識されているのか。その理由は、敵か味方かの判別が困難だからだ。安全な種だと思わせて多くの人間を一度に殺害した者が過去にいて、それ以来教団側はあえて<人外は敵だから近寄ってはいけない、必ず警察や教団に報告するように>という流れにしたんだ。そして、敵対種族ではない限り、それが判別できた時点で<この方は安全です>と、報告を上げる」 「・・・それって、ガセ情報とされた中には、君達のような友好種族も含まれているって事?」 「そう言う事だ。本来は教団の人間全員が知っているはずの事だから、過去の事例も説明してもらうといい。教団の者だけが閲覧できる記録には、ちゃんと正式な分類わけがされた状態になっているはずだ」 組織内の記録と、雑誌に載る記録は違うんだよ。 「・・・わかった。上司にしっかり聞いておくよ」 二人の話を注意深く聞きながら、スザクはこれから自分が取るべき行動を考えていた。 人外である彼らが、自分の身を守るために嘘を言っている可能性は否定できない。 一度の本部へ戻り、組織内の情報を調べてから真偽を判断するべきだ。 もしかしたら彼らは本当は敵で、こうやってスザクを上手く言いくるめておいて、安全を確保してから逃げるつもりなのかもしれない。 とはいえ、それに関しては何も問題ない。 彼らが吸血鬼である以上、日が昇るまで二人を屋敷内に閉じ込めておくことが出来れば、日が落ちるまでの間此処から出られなくなる。 その間に調べて戻ってこればいいだけの話だ。 この夜の間に二人が姿を消そうとしたときは、全力で捕獲する。 「では、日が昇ったら、枢木は一度教団本部に戻るべきだな。魔女の森の騒動は間違いなく通報されているだろうから、その報告もきっちりして欲しい」 「私達の名前以外話されて困る事は何もないから、事細かに説明しても構わないんだが・・・」 そこまで言って、C.C.は何やら考えはじめたようだった。 「どうしたんだ?」 何時にない様子のC.C.に、L.L.は質問した。 「いやなに、あいつらがな、枢木の仲間が森を荒らしたと言っていたんだが、一体誰の事かと思ってな」 「僕は単独行動だから、教団の人間じゃないよ」 C.C.のその言葉に、スザクは即答した。 「それはそうだろう。森を荒らすような事を教団の人間はやらないだろうさ。だが、お前の仲間だとそいつらは言ったらしい。あるいは、ただ土地を追われた憂さ晴らしを、何か理由を付けてしたかっただけかもしれない、か?」 C.C.は考えるだけ無駄か?と、L.L.へ視線を向けた。 「可能性ならいくらでも考えられるが、二人とも無事に戻ったのだからもういいだろう。日付けが変わってだいぶ経つ。枢木は休め。C.C.もだ」 時計を見るといつの間にか2時を回っていた。だが、森の中で倒れていたせいか眠気はない。二人の警戒をとき、監視するには好都合だと判断し「そうだね、そろそろ休もうかな」とスザクは言った。 「私は平気だ。荷造りするのだろう?」 「ああ。今のうちに車に積める物は積んでおく」 どうせ一番多いのは調理器具と、C.C.の吸血鬼コレクションだからな。 頻繁に引っ越しをするという二人は、私物とがとても少ないのだと言う。 「・・・本当に出て行くの?」 既に此処を去るという意思を見せる二人に、スザクは眉尻を下げながらそう聞いた。 もし彼らの言う事が本当で、害の無い友好種族なら追う必要はないと言う事だ。 此処に住んでくれれば、教団に手を貸してくれれば、一緒にいられるのに。 「当然だ。教団には恩を仇で返された覚えがあるから、手を貸すつもりは無い」 L.L.は即答した。 「恩を仇で?何をされたのさ?」 そうスザクが訊ねると、とたんにL.L.は顔色を無くし、スザクから視線を外すと、返事をすることなく集めていた食器を持って足早にキッチンへ行ってしまった。 今までにない反応と、強い拒絶を感じたスザクは、その姿を目で追うことしかできなかった。何をされたのだろう。よほどの事があったに違いない。 スザクはC.C.へ視線を向けると、C.C.の目は冷たい光を宿していて、激しい怒りを抑えている様にも見えた。 この怒りはスザクにではない、嘗てあった事に対してだ。 「L.L.の口から言うのは辛い話だが、私は優しいからな、教えてやるよ。昔、私もL.L.も教団に協力していた。だが、教団は馬鹿な事をしてくれてな。・・・教団が、あいつの親友スザクを殺したんだ」 |