夜の隣人 第32話


通報を受け、L.L.とC.C.の住む屋敷へ戻って来たスザクは、門の外に何十人と言う住人が集まっているのを目にした。ランスロットが近付いてきた事に気付いた近隣住民は、僕とランスロットが通れるようにと門の前を大きく開いてくれた。次第に入口へ近づくに従って、大きく壊された門が視界に入り、思わず舌打ちをした。

「枢木さん大変だ。あの日本人たちが!」
「大きな音がしたと思ったらこんな状態になっていて」
「私達は魔女の怒りが怖くて二人を助けに行けない。枢木さん急いでくれ!」

町へ走り込みに行く際、何度も顔を合わせた近隣住民たちが、口々にそう言ってきた。手を合わせ、祈るように屋敷を覗いている者もいる。此処にいる人たちには、念のため特派直通回線を教えていたのが功を奏した。
必死な声の住民たちから連絡が入ったのは30分前。
扇達が重機を使ってこの屋敷の門を壊し、中へと入り込んだと言うのだ。
スザクが今朝、屋敷を離れた隙を突いての行動。
ロイドとセシルに緊急出動の命を受け、スザクはランスロットを最高速度で飛ばして戻って来た。

「報告は受けています、急ぎますので失礼します」

僕はランスロットに乗ったままひしゃげた門をくぐり抜け敷地内へ入った。門を破壊したのだろう重機は屋敷の入口を壊した状態で放置されていて、既に彼らは屋敷の中へと入り込んでいる事が解る。急がなければ。スザクはブレーキをかけることなく、ランスロットごと屋敷のエントランスへ飛び込んだ。
突然のランスロットの侵入に、エントランスにいた者たちは全員こちらに視線を向け、他の場所を探していた者たちも、慌ててエントランスへ走って来た。彼らの手には拳銃とナイフが握られていて、良く見ると、床に血液の跡が点々と残っていた。
此処にいる者に怪我があるようには見えない。
となればL.L.かC.C.か。
スザクはエンジンをかけたままのランスロットから降り、険しい表情のまま、視線を彼らに向けた。
全てのカーテンが開けられているエントランスは明るく、全員の顔が良く見える。
彼らは一様に、ばつの悪そうな、それでいて誇らしげな表情を浮かべていた。
来たのがスザクだと解った事で、玉城と扇が、胸を張るような堂々とした態度でスザクの元へ歩いてきた。

「何をしている」

スザクは何時になく低い声で彼らに問いただした。
その声音に一瞬びくりと足を止めた二人だったが、すぐにへらへらと笑いだしたので、スザクは眉間のしわを更に深くした。

「見ての通り吸血鬼狩りだ。太陽さえ上れば、吸血鬼は無力だから、俺達でも狩る事は出来る。本当は君が戻るのを待つべきだったんだが、一刻を争う事態だったんだ。すまない」

扇は本当に申し訳ないと言いたげな表情でそう答えた。

「なんで、こんな事を?」

低い声音で、それでも怒りをどうにか押えながらスザクは訊ねた。

「昨日、君が魔女の森に入っていったのを、俺と玉城が見ていて、着いて行ったんだ。そしたら、あの森に化け物が居て、俺たちは慌てて逃げ出したよ。夜中には化け物たちが騒ぎ出したし、あれは絶対に此処の吸血鬼が関係していたんだ。下手をすれば今夜にも魔物がこの町に攻めてくるかもしれないから、俺たちがこうして、な?」

南という男がそう言うと、同意を求める様に玉城へ視線を向けた。

「そう言う事なんだよ。お前の仕事取って悪かったと思うが、俺達に任せておけって」

拳銃を手に、玉城はそう笑いながら言った。
その間に、他の日本人たちもエントランスへ集まってきていて、全員が自分たちは正しい事をしているのだと、自信に満ちた表情を浮かべていた。

「見てみろよ、血が落ちてるだろ?突入した時に何発か打ったんだけどよ、それが当ったみたいなんだ。少なくても1匹は弱ってるはずだから、このまま一気に二匹とも始末しようぜ。な?」

全員に向かってそう言った玉城の言葉に、そこにいた日本人は顔に笑みを浮かべながら頷いた。その様子を見て、スザクの中の何かが切れる音が聞こえた。

「馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、此処までとは思わなかった。魔女の森に入り込んだのもお前たちだったんだな。もういい、話は後でゆっくりと聞かせてもらう」

スザクがそう言い終わる頃には、エントランスに警察官が入ってきていた。スザクは警察官たちに振り返ると、殺気を解いて淡々とした口調で話し始めた。

「この屋敷内にいる日本人を全員逮捕し、教団へ連行して下さい。殺人未遂・・・いえ、もしかしたら殺人罪も加わるかもしれません」

スザクのその言葉に、警察官は扇達へ向かって走り出した。

「え?え?なんだよ!なにすんだよ!」
「ちょっと待って!私達が何をしたって言うの?」
「吸血鬼なんだよ此処の連中は!わかってるのか!」

警察官に拘束される意味が解らないと、彼らはパニックになりながら逃げ出した。真っ先に捕まった扇は、警察官二人に拘束され、裏切られたと言う表情をこちらに向けてきたので、スザクは殺気を込めて扇を睨みつけた。敵意を持つ眼差しに気がついた扇はさっと顔色を無くす。

「ま、まさか!枢木!お前吸血鬼に操られているんだな!それとも、眷族になったのか!?」

まるで憎い相手を見るように顔をゆがめ、怒鳴ってくる扇は、警官に「枢木は吸血鬼に操られているんだ、捕まえるのはあいつだろう!まさか警察も奴らの手に!?」などと騒ぎ始め、その言葉に玉城達もきっとそうだと暴れ出した。抵抗の為ナイフで切りかかったり、銃を向けると言う愚かな行為をしだす者もいて、更に幾つかの罪状が加わったなとスザクは妙に冷静な頭でそう考えたが、不味いなとすぐに気がついた。
このままでは警官に怪我人が出る恐れがある。
自分達の邪魔をする者は全て魔物か。最低だな。

「何を言っているんだ!ここの2人は、教団の調査の結果人間だと判断されている!彼らは特殊な病を患っているため、太陽の光を浴びる事が出来ないだけだ!!あれだけ勝手な事をするなと言ったのを忘れたのか!!」

冷気が漂うほどの殺気と怒声を浴びた扇達は、目を見開き、その動きを止めた。

「お前たちは、数多くの罪を重ねてきた。我ら教団の任務妨害ももちろんだが、此処に住む二人への殺害未遂もこれで加わった事になる。いや、もしかしたら殺人になるかもしれないな。既に多くの罪状で懲役30年が決定していたが、今回の件で無期懲役か死刑が決定するだろう。二度と塀の外に出られると思うな!!」

自分たちがどうしてこんな目に、と言うような情けない表情で、扇たちはその場に崩れ落ちた。

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