夜の隣人 第33話 |
スザクは、ランスロットの後ろに積んできた、大きなアタッシュケースを下ろした。 非常に重いそれは、床に置く際にドスンと大きな音を立て、拘束された扇達と警官はその音に反応してスザクの方へと視線を向けた。 視線が自分に集まった事に気づいていたスザクは、その顔かっら表情を消し、淡々とした口調で話し始めた。 「二人は自分が探します。現段階では白とされている二人ですが、黒の可能性も完全に否定できていません。安全のため彼らを連れて一度屋敷を出て下さい。確かに吸血鬼は太陽に弱い。でも、魔力に関しては太陽は関係ありません。遠くからでも簡単に人を殺せるのが吸血鬼ですから」 その言葉に、警察官たちは大急ぎで捕獲した扇達を連れて屋敷の外へと向かった。 未だ抵抗をする扇達は、罵声をスザクに浴びせながら、警察官に引き摺られるように屋敷から出た。これで暫くの間この屋敷内に立ち入るものはないだろう。 屋敷内が静かになってから、スザクは周囲を見回した。 この数日暮らしていた場所。 あれだけ綺麗に整えられていたのに、花瓶は割られて花は踏みつけられ、カーペットはめくられ、切りつけられ、絵画にしても乱雑に床に置かれていた。 おそらく二人の事だ、逃げるなら地下しかないだろう。 その場所以外は太陽の光を受けてしまう。 重いアタッシュケースを担ぐように持ち上げると、階段横にあるギミックを作動させた。ガシャリと音を立てて仕掛けが作動し、やがて何もなかったはずの壁に地下への扉が現れた。ノブに手を掛け、思わず眉が寄る。 扉に鍵がかけられているのだ。 今まで無かったことだが、これで二人が下にいる事は確定したと、躊躇うことなくその扉を蹴り開けた。 大きな音を立ててドアが吹き飛び、階段を転げ落ちる音が響く。 真っ暗だった階段に、窓から降り注ぐ光が差し込んだ。 階段に点々と残された血痕に顔を顰めながら、階段を下りていく。 血痕の量がは下へ降りるほど増えていった。 やがて最下層へとたどり着くと、真新しい扉が道を塞いだ。 ここに初めて来た時に破壊した扉。 確かめなくても鍵がかかっていることは解っている。だから、ノブに手をかけることなく蹴り開けると、扉は大きな音を立てて、部屋の壁まで吹き飛んだ。 スザクはその扉を気にすることなく、照明で明るいその部屋をぐるりと見回すと、目的のものはすぐに見つかった。太陽の光の当たらない部屋の隅にC.C.が居て、彼女の服は真っ赤な血に濡れていた。スザクを認識したC.C.は冷たい眼差しを向けたまま、ゆっくりと立ちあがった。その彼女の後ろには、壁に寄り掛かるように座るL.L.。 だが、彼が動く気配はなかった。 「・・・撃たれたのは、L.L.なんだ」 「・・・ああ。見ての通りだよ」 スザクとC.C.は、互いに感情のこもらない声で、そう言った。 L.L.の座っている床の血だまりが広がっていく。C.C.の両手も血に濡れていて、おそらく彼女がその手で止血を試みていたのだろう。 それが無くなった事で血がどくどくと流れ出していた。 「で、どうするつもりだ?私達を殺すか?」 殺気を帯びたスザクにC.C.は淡々とした口調でそう訊ねた。 「・・・」 スザクはスッと目を細めると、手に持っていたアタッシュケースを床に置いた。ドスンと重い音を立てたそのケースに視線を向けたC.C.は口元に冷たい笑みを浮かべた。 「随分と大きな物を持っているとは思っていたが、それは対魔具か?成程、そういう答えを出したか、教団は」 「・・・許しは請わないよ」 スザクはそう言うと、アタッシュケースを開いた。 スザクはランスロットを押し、重いアタッシュケースを片手で担ぐように持って、屋敷の外へ出た。 敷地内には何台ものパトカーが止まっており、警察官がバタバタと走り回っている姿が 目に入った。扇達は護送車の中に乗せられており、窓からこちらを睨みつけ、何やら叫んでいるようだが、全くこちらには聞こえなかった。 一番門に近い場所に見慣れたトレーラーが止まっており、スザクは迷うことなくそちらへ足を進めた。そこにはセシルが立っていて、スザクをじっと見つめていた。 「お疲れ様、スザク君」 「迎えに来てくれたんですね、セシルさん」 「ええ。もしかしたらそれ、使ったかもしれないから、念の為迎えに行って欲しいってロイドさんがね。・・・使ったのね?」 それ。つまりこのアタッシュケースの事。 「はい」 セシルは辛そうに眉を寄せた後、無言のままトレーラーの後部扉を開いた。スザクはアタッシュケースをトレーラー内の台の上に置くと、ランスロットを中へ運んだ。 「話は私がしてくるわね。スザク君、疲れたでしょう?助手席に座って休んでいて」 セシルはそう言うと、ミネラルウオーターのペットボトルをスザクの横に置き、トレーラーから離れ、スザクは礼も言わず、無言のままランスロットを固定した。 報道陣と警察関係者、そして近隣住人へ向けて今からセシルが話すシナリオは既に決まっていた。 二人は人間で、特殊な病を持っている事。 それは太陽の光に極端に弱く、火傷をしてしまうと言う皮膚疾患。 その二人は魔女狩りの被害にあい、1人は拳銃で撃たれはしたが、どうにか逃走することに成功したこと。 もし、太陽の光から隠れるように移動する人を見かけたら、すぐに避難させてほしいと言う事、避難が無理なら布でも何でも体にかけるだけでも違うので、太陽の光が当たらないよう手を差し伸べてほしいと言う事。すぐに救急車を呼んでほしいというお願いを幾つもしていた。 茶番だなと、スザクは冷めた目でその様子を車内のテレビで見ていた。 これで二人は100%人間だとされ、扇達は魔女狩りの罪も加わる。 セシルに渡されたペットボトルの水を煽り、大きく息を吐く。 二人は吸血鬼だった。 それは今朝ロイドとセシルも肯定していた。 そして、先ほどまで、スザクと地下に居たのだ。 近隣住民には悪いが、彼らが見つかる事は無い。 「・・・疲れた」 スザクは画面に流れる茶番を流し見ながら、そう呟いた。 |