黒猫の見る夢 第13話

C.C.の願い。
それは死ぬ事だった。
自分と言う存在を永遠に終わらせる事。
不死という呪いを移すためルルーシュに力を与えたのだと言う。
そして、困った事。
それは、ルルーシュがコードを引き継ぐ事が出来なかった場合、皇帝の計画に協力するという契約をしている事だった。
皇帝の計画とは、ラグナレクの接続。
人類の意思を一つとし、嘘の無い世界を作ると言う物。それにはコードが必要で、C.C.はその新たな世界が魅力的に思えたのだと言う。
それだけではない。母、マリアンヌ皇妃殺害の犯人が皇帝の双子の弟で、幼い子供の姿をしたコード保持者V.V.であり、マリアンヌもまたギアスを持っていた。そしてそのギアスの力で、肉体は滅んでも精神だけは生き続け、現在はナイトオブシックスの心の中に住みついているのだと言う。
そこまで話を聞いてルルーシュは「下らない」と嘆息した。

「下らない、だと?」

その答えに、C.C.は眉を寄せた。

「人と人の心の垣根を取り払い、全ての心を一つとする計画。嘘の無い世界。下らないとしか言いようがないだろう」

ふん、と鼻を鳴らし、ルルーシュは頬杖をついた。
空いている手では猫を愛おしむかのように撫で続けている。

「全てを終わらせ、静かな眠りにつく事が望みだと言ったな」
「ああ、永遠の眠り。私と言う存在の死。それが望みだ」
「ラグナレクの接続が成されれば、その望みは永久に果たせなくなる事に気づいているのか?」

そのルルーシュの言葉に、C.C.はどういう事だと詰め寄った。

「簡単な話だ。死者とも心が一つになると言ったな?生と死の垣根が消え去りるのだから、例え肉体的な死を迎えても、心の、精神の死を迎える事は無くなると言う事だ。母さんの今の状況と同じだな。肉体は既に失われているが、その心は生者の心の中で生き続ける。そんな状況を永遠の眠りとは言わないだろう?」

ルルーシュのその問いに、C.C.は答える事は出来なかった。
マリアンヌはギアスの力で生きている。
肉体は死んでも尚、その心は眠ることなくそこにある。
私の望む死はそれではない。そんなものを欲しいとは思っていない。
そんな死は、自由に動ける体を失うだけで、今と何も変わらない。

「・・・それはつまり」

C.C.は顔色を無くしながら、震える声でそう呟いた。
何度も言わせるなと言いたげに、ルルーシュはC.C.を見た。
だが、決定的な言葉が欲しいのだと理解し、再び口にする。

「体を失っても永遠に生き続けると言う事だ」

今はまだ誰かにコードを押しつけて死ぬと言う未来も選べるが、ラグナレクが成されれば、その選択さえ失われると言う事。

「1人で生きるのが辛いから道連れが欲しい。だからラグナレクの接続に協力をする。と言うのであれば、確かに魅力的な計画だろうな」

なにせ全員が不老不死と同じになるのだから。
その言葉に、C.C.は再びぶるりと震えた。

「・・・良く考えろC.C.。例え心が一つにならなかったとしてもだ、相手の嘘偽りない心を知る世界など、マオを見ていたお前は、それがどれ程の地獄か理解できるはずだ。マオは死んだ事でその世界から解放されたが、ラグナレクの接続が成されれば、静かに眠るマオは再びその地獄へ落ちる。何せ生と死の違いは肉体のある無しだけだ」

「・・・」

C.C.はなにか言いたげに口を開いたが、直ぐに口を閉ざし俯いた。

「なあC.C.、肉体的な死の意味が無くなれば、生きる意味も無くなると思わないか?生きていても死んでいても同じなのだろう?全員が一つの存在なのだから、目の前にいるのも自分だ。貧困の中にいる自分、裕福な自分。美しい自分、醜い自分。どれも自分となれば、不要な自分は生きる意味が無いと思わないか?」

そう言いながら、ルルーシュは益々顔色を悪くしたC.C.を見つめた。

「そもそも、見た目は違っても中身は自分という存在を愛せるだろうか?俺は、例え見た目がナナリーでも、その中身が自分なら愛せる自信は無い。これから生まれる命も、死ぬ命も全て自分ならば、誕生の喜びも死に分かれる悲しみも無いだろう。さて、そんな世界で人類は自分の血筋を残そうなどと思うだろうか?生と死に意味がない以上、肉体的な遺伝子を残す意味はあるのか?なあ、C.C.。最後はどうなると思う?」

そのルルーシュの問いに、C.C.は顔を青ざめながら口を噤んでいた。
結論などとっくに出ているが、認めたくは無いのだろう。それがよく解る。

「俺が思うに、そう時間をかけずに人という種は絶滅し、地上に残るのはコードを持つ者だけとなる。一つになるのは人間だけではなく、全ての生き物もだと考えれば、それらも種の本能を失い絶滅する可能性が高い。まあ、自我を、意思を持たない物は残る可能性はあるが、そこまでは解らないな」

そんな世界に、C.C.は投げだされることとなる。
その思考は全てと繋がっているが、肉体だけは残り続ける。永遠に。
もしかしたらコードを持つ者は一つとならない可能性もある。
そうなれば、人類が消えた世界で生き続ける事となるのだ。
それは今以上の地獄。
C.C.は眉根を寄せ、唇を噛みしめた。
そんな世界、耐えられるはずがない。
泣きそうなその様子に、ルルーシュは両腕をC.C.へと伸ばし、その体を抱きしめた。

「C.C.、お前はギアスの研究を行うギアス響団の話をしていたな。そこではギアスを解除する研究はされていないのか?」
「・・・解らない。私がいたのは随分前の事だからな」

震える声でC.C.は答えた。
ある程度のギアスなら、C.C.は打ち消す事が出来るのだと言う。
だが、ルルーシュや皇帝ほどのギアスは消し去ることが出来ない。
だからこそ、無効化する方法を研究している可能性がある。
ルルーシュはそう考えていたのだ。

「そうか。ならばまだ可能性はあるな。C.C.、ギアス響団を調べるぞ。ギアスが解除可能であれば、こちらでも研究を進める。俺は必ず元の人間の姿に戻ってみせる。そして、そのV.V.と言う者のコードを奪い、ラグナレクの接続を阻止する」

そのルルーシュの言葉に、C.C.は伏せていた顔を上げた。その瞳は涙に濡れていて、何時になく弱弱しいその表情は、ルルーシュの庇護欲を煽った。
見た目だけで言うならルルーシュよりも年下の少女だ。
年下に弱いルルーシュは自然とC.C.に対し表情を和らげた。

「V.V.の、コードを?」

弱弱しく呟くC.C.に、ルルーシュはにこりと笑いかけた。

「ああ、俺はお前と同じ不老不死となろう。そしていつかお前をそのコードから解放して見せよう」

永遠の生、つまり研究をする時間がたっぷりあると言う事だ。
研究に費やす時間と、俺の頭脳があれば必ず果たせるだろう。
お前から受けた恩はそれだけの価値がある。

「これは契約だ。お前が俺に力を貸してくれるのであれば」

俺に力を与え、俺を救い出してくれた優しい魔女を人間へ戻す為の。

「ああっ、結ぼう、その、契約っ・・・」

C.C.はルルーシュに抱きつくと、その胸に顔をうずめ、声も出さずに泣き続けた。
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